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起こされる者。
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結局のところバルトロメイにとって何が経験になったのかわからないまま、トレインのパーティーメンバーたちと共に無事にダンジョンから戻り、冒険者ギルドで預かっていてもらった愛馬たちと共にその日は過ごした。
生まれて間もなく捨てられた後、寝床は『母』に抱かれてか『きょうだい』の誰かと一緒に枯葉の上に鞣した皮を敷いただけの物で、それに不満などなかった。
だが13歳の誕生日がきた日に人間の世界に戻され、粗末ながらも綿を入れて整えたベッドマットや敷布、そして掛け布団などにすっかり身体は慣れていたらしい──地面に寝っ転がるだけですぐに叩き起こされて夜間の見張りをさせられた疲れもあって、暖かい馬体に寄りかかったバルトロメイは、それはもうグッスリと眠ったのである。
翌朝、突然ダンがバルトロメイの休んでいた納屋に飛び込んでくるまでは。
「オオオオオイッ!!ヤ、ヤバいヤバいヤバいヤバいって……って?お、お前、何で納屋なんかで寝てるんだ……?」
「あ、おはようございます、ダンさん。どうしましたか?」
多少寝ぼけてはいたものの、いつもと変わらない丁寧さでバルトロメイは挨拶をしたが、納屋にいると言われててっきり馬の世話をしているだけだと思っていたダンは、その馬たちに挟まれるようにくつろぐ姿に気を削がれた。
「部屋で寝ていいと言われたんですが……なんか一緒にいたくって」
「一緒にってなぁ……」
「それで何か……?」
呆れ顔で脱力するダンに、バルトロメイは無邪気に訪問の理由を尋ねる。
その様子に一瞬ポカンとしたものの、ダンは慌ててここに飛び込んできた原因を思い出した。
「ティアンの奴が、ガイルを斬っちまったんだよ!!!」
「ほぇ?」
言葉の衝撃の大きさに、思わずバルトロメイの頭だけでなく、動きまで止まってしまった。
バルトロメイと別れた後、ティアンたちはいつも通りにバルトロメイから巻き上げた成功報酬で飲む予定だった。
いや今回は特に依頼を受けたわけではないから、ダンジョンからでの魔物討伐報酬か、いなくなるはずだったバルトロメイの荷物を換金したり山分けしたりして、互いの幸運を祝う予定だったとも言える。
ひどい計画だが、ダンは今さら隠す意味もないと正直に告白した。
「酷い話だろ?先輩面、親切面しておいて、本当の目的は単なる強盗だ……軽蔑してもいいぜ」
「あっ、いえ……うーん……とりあえず、僕もエンもヤシャも荷物も馬車も無事なんで。はい、大丈夫です!」
「お人よしかよ……まぁ、それはもう『クエスト未達成』ってこった。マジの依頼じゃなくてよかったがな……んで、本題だが」
「あっ、はい」
いつもの陽気さはなく、ティアンは不気味なほど静かに飲む。
それなのにガイルは無理やりのように陽気に振る舞い、ミヤはパートナーだったはずのリーダーではなくガイルにもたれかかって微笑んでいる。
いつもと変わらないのは皆の会話に加わらないダンだけで、それをおかしいと思いつつも、誰も指摘することなく時間と酒の杯だけが進む嫌な夜だった。
生まれて間もなく捨てられた後、寝床は『母』に抱かれてか『きょうだい』の誰かと一緒に枯葉の上に鞣した皮を敷いただけの物で、それに不満などなかった。
だが13歳の誕生日がきた日に人間の世界に戻され、粗末ながらも綿を入れて整えたベッドマットや敷布、そして掛け布団などにすっかり身体は慣れていたらしい──地面に寝っ転がるだけですぐに叩き起こされて夜間の見張りをさせられた疲れもあって、暖かい馬体に寄りかかったバルトロメイは、それはもうグッスリと眠ったのである。
翌朝、突然ダンがバルトロメイの休んでいた納屋に飛び込んでくるまでは。
「オオオオオイッ!!ヤ、ヤバいヤバいヤバいヤバいって……って?お、お前、何で納屋なんかで寝てるんだ……?」
「あ、おはようございます、ダンさん。どうしましたか?」
多少寝ぼけてはいたものの、いつもと変わらない丁寧さでバルトロメイは挨拶をしたが、納屋にいると言われててっきり馬の世話をしているだけだと思っていたダンは、その馬たちに挟まれるようにくつろぐ姿に気を削がれた。
「部屋で寝ていいと言われたんですが……なんか一緒にいたくって」
「一緒にってなぁ……」
「それで何か……?」
呆れ顔で脱力するダンに、バルトロメイは無邪気に訪問の理由を尋ねる。
その様子に一瞬ポカンとしたものの、ダンは慌ててここに飛び込んできた原因を思い出した。
「ティアンの奴が、ガイルを斬っちまったんだよ!!!」
「ほぇ?」
言葉の衝撃の大きさに、思わずバルトロメイの頭だけでなく、動きまで止まってしまった。
バルトロメイと別れた後、ティアンたちはいつも通りにバルトロメイから巻き上げた成功報酬で飲む予定だった。
いや今回は特に依頼を受けたわけではないから、ダンジョンからでの魔物討伐報酬か、いなくなるはずだったバルトロメイの荷物を換金したり山分けしたりして、互いの幸運を祝う予定だったとも言える。
ひどい計画だが、ダンは今さら隠す意味もないと正直に告白した。
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「あっ、いえ……うーん……とりあえず、僕もエンもヤシャも荷物も馬車も無事なんで。はい、大丈夫です!」
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いつもの陽気さはなく、ティアンは不気味なほど静かに飲む。
それなのにガイルは無理やりのように陽気に振る舞い、ミヤはパートナーだったはずのリーダーではなくガイルにもたれかかって微笑んでいる。
いつもと変わらないのは皆の会話に加わらないダンだけで、それをおかしいと思いつつも、誰も指摘することなく時間と酒の杯だけが進む嫌な夜だった。
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