間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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出し抜く者。

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そんな彼らにも運が向いてきた──そう思ったのは、バルトロメイが流しの露店商いの武具屋から『凄い剣』とやらを買ったと見せてもらった時である。
銀貨2枚で買ったというその剣は装飾華美で、付いている『宝石』のほとんどは模造品だった。
だが守銭奴という言葉を嫌いつつもやはり金に目のないダンがティアンに向かってこっそりと耳打ちしたのである。

──アレについてる屑石に見える石、それこそが微量ながらも魔石である、と。

ならばその剣をダンジョン探索中にいただいて、後は武器の使えないバルトロメイやくたたずをダンジョン内に置き去りにしてくればいいだけである。
問題は、なかなかバルトロメイがその剣を抜くような難しいダンジョンはすでにもっとレベルの高い冒険者たちが散々攻略し、ダンジョンコアと言われる魔石を内包したマスター級魔物さえも斃されてしまい、この辺りには難しいダンジョンが現れづらくなっていることだった。


モノを見る目のない若い冒険者に曰く付きの剣を押し付けた露天商は、ホクホク顔で今日も自分の店先を賑わしている客たちに向かって、綺麗な石のついた櫛を勧めている。
あの剣は何やらご立派な甲冑をつけてはいたが、その隙間から蔓状植物魔物に絡めとられて干からびていた輩の腰からいただいた物だった。
飛び切り目立っていたのは剣の柄に嵌められたやたら目立つ大きな紅玉だったが、取り外したはいいもののどうやっても砕けず、いまだに自分の懐にしまいこんである。
代わりに水晶を砕いて着色した模造品をくっつければ、なかなか元の品とも遜色ないように見えた。
それに気を良くした彼はさらに目ぼしい石たちを似た感じの模造石に取り替え、刀身もそれっぽく見えるぐらいの薄い銀メッキを施して、錆び刀をちょっとした名刀に見せかけたのである。
「しかしあの甲冑から見るに、あの剣士は女だったみたいだなぁ……チッ」
ブツブツと呟くのは、魔物に取り込まれる前にその女剣士の顔を拝めなかったという後悔である。
ただの人間ならばあっという間に骨まで溶かされて甲冑しか残らないであろうが、あの死骸はまだ木乃伊状態で蔦に絡めとられており、まだ魔力が尽きなかったのか変色しきっていない艶やかな髪が兜から零れていた。
そんな高魔力の持ち主ならば魔物に後れを取るはずもないと思うが、植物魔物の生態はただの商人である彼にはわからない。
ただあんなに綺麗な髪の持ち主ならば、きっと生前も美貌の持ち主だったに違いないと思い、そうであるならばその剣士を自分が助け、その『御礼』に彼女の鍛えられた肉体を要求したのにという妄想に発展しただけである。
「おじさーん、この青い石ってどんな意味があるのー?」
「あー、ハイハイ…これはねぇ……」
パッと見自分とそう年齢の変わらなそうな町娘にそう呼ばれて少し頬が引くついたが、サッと取り繕った商人は愛想よく次の町に発つまでの間に商品を売りぬこうと、口から出任せの幸運知識を披露し始めた。


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