間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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「それなんだが……」
「なんだが?」
「わからん!!」
キッパリとアギディハーンが言い切り、バルトロメイ以外の室内にいる者は皆脱力する。
「何ですかそれ……そんなわからないってこと、自信満々に言い切らなくても」
ツッコむのはやはりアギディハーンについてきたギルド職員だけで、村長たちも同じことを言いたそうにしつつグッと言葉を飲み込んだ。
けれどもそれを聞いてバルトロメイはゴソゴソと自分の腰につけたバッグを探る。
「石…石…吸収…結界…?」
呟きながらパラパラと捲るのは、ビン町の冒険者ギルド受付嬢をしているメイシャーお手製の『魔石一覧説明本』である。
読み込んでいるのか紙の端が丸まっているが、あるページで指を止めるとアギディハーンの方へずいっと向けて見せた。
「あの……これ、でしょうか?」
そこには『ヴェンデル』という名前が書かれており、魔石としての効果や採掘方法、さらに取り込んだ魔物の魔力──人間に害を与えるということから『魔素毒』と名付けられたそれを魔石の中に縛り付け、ゆっくりと無毒化するとあった。
しかしそれにはかなり時間がかかり、無毒化が終わった魔石は少しだけ成長し、また新たに魔素毒を取り込んでいくとまで書かれている。
「すげぇ……何なんだ、この本を書いたやつ……奴?女?」
「あ、ビン町の冒険者ギルドにいる女の人です」
「ビン……女?あそこには女の冒険者上がりなんていたか?」
アギディハーンはバルトロメイではなく、自分の連れに話を振る。
それを不思議に思うことはなかったらしく、ギルド職員はう~んと唸りながら記憶を探った。
「冒険者……そう、ですね……試験官とか管理課の方には何人かいますけど、こんなに魔石に詳しいのは……確か『魔石マニア』って言われてるあの子かな?」
「あの子?」
「ええ。メイちゃん…メイシャーっていう可愛い子なんですけど……いやでも別に本人は冒険者でも何でもなくて……でも凄いんですよ!何か地質学?偉い学者さんみたいな勉強をしてたらしくって。普通の女性だとせっかくの知識なんて活かす機会がないけど、冒険者ギルドにいればいろんな魔石を見れるかもって募集してきた珍しい子なんですよ。ま、薀蓄すごくって、けっこう煙たがられてるらしいんですけど……いやでもホント凄いですねぇ~」
凄いすごいとアギディハーンとギルド職員が盛り上がっているが、レーアやバルトロメイ、そして村の者たちには何のことやらさっぱりわからない。


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