間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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閉じ込められる者。

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鍵がかかっているわけでもなく、扉は抵抗なくあっさりと開いた。
何か恐ろしいモノが飛び出してくるわけでもなく、静謐さに包まれたその部屋は死者の匂いすらしない。
というより、生きた者の気配はまったくなかった。
「……あ、あの……レ、レーアさん……?」
バルトロメイが振り返ると、明らかに顔色の悪いレーアが小刀を胸前で握りしめて扉の外に立っている。
パクパクと口を動かしているが、何を言っているのかは聞こえなかった。
「……ひょっとして」
ふと思い立ち、バルトロメイは携えていた長剣をスラリと鞘から抜く。
それを見たレーアが息を飲み怯えた顔でジリッと後退るのがわかったが、あちらにもバルトロメイの声が聞こえていないようで泣き出しそうな目で首を振っているのにかまわず、ゆっくりと剣を上段に構える。
「避けて!」
その声が聞こえたわけではないだろうが、入り口から身を隠すようにレーアは移動し、ギュッと目を瞑った。

シュウッ

空気を切る音がする。
何かの塊に刃が当たる。
ズルリと歪む。

ジュワリと何かが滲む音がして、ふわっと部屋の空気が軽くなった。
「バッ…バルトロメイっさんっ!イヤッ!!ヤメテくださっ……」
聞こえたのは、レーアの悲鳴と何か揉み合う音。
名前を呼ばれてバルトロメイがレーアの助けに向かおうとして──自ら飛び込んできたレーアの身体をさらに誰かが後ろから強く押したためにふたりはぶつかり、抱き合うようにして安置室の床に倒れ込んだ。

ガンッ!バチンッ!

けたたましい音が立ち、一気に部屋が暗くなる。
「え…な、何……?」
「フンッ!バカな娘ね……大人しく渡せばいいのに。どうせその部屋からは出られない。3日も閉じ込められれば、ちゃんと分別がつくでしょうよ!」
「ああ、まったくだ。育ててやった恩も忘れて……せいぜい父親の呪いに怯えるがいい!泣いて許しを乞えば、3日と言わず出してやらんこともないがな!」
「あなた!!」
「ぅ………」
レーアを受け止めたバルトロメイが闇を透かして見れば、どうやら扉がある方向から男女が勝手なことを叫んでいたが、レーアはバルトロメイとぶつかった衝撃で気を失っているらしい。
あちらからは室内の様子がよく見えていないのか、それともバルトロメイと抱き合っているように見えるせいか、バンッと外側から叩く音がしてさらに女の声が聞こえる。
「フンッ!まったく、あの女もイイ男と見ればすぐに尻を振って……尻軽な女の子供ね、やっぱり。そうやって男に縋りついていれば、慰めてもらえて、助けてもらえると思っているの?血は争えないわ!どうせこの部屋からは出られないんだから、死んだ父親と母親と同じように、同衾なさいな!」
「……あ、あの……?」
バルトロメイが一体何のことかと聞き返す前に、言いたいことだけ言ったらしい男女の声と足音が遠ざかった。


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