間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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迫力ある者。

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そしてその言葉を合図にしたかのようなタイミングで、ヌッと黒い影がシェイジンの後ろから賊ごと覆い尽くす。
「……シェイジン殿。その不埒者が、貴殿らが警戒していた者たちか?」
「……あ~、うん……た、隊長殿……」
バカみたいな巨躯ながら隠密行動が特技という元王宮警備衛兵隊のサイラー・ドファーニに背後に立たれ、さすがのシェイジンも大きく肩を弾ませ、真正面から見るまでその存在に気付きもしなかった強盗たちに至っては、見上げる男から放たれる眼光に気絶寸前だった。

サイラーはテイラー・ドファーニの兄でドファーニ家本家の長男であるが、商売事よりも荒事に関心が重く、幼い頃から弟たちを守る役目を自負していた。
資産家の子息ともなれば身代金目当ての誘拐など日常茶飯事と言えなくもないが、それを護衛よりも早く悉く退いてみせると、父を始め商会の重鎮たちは早々にサイラーの王宮警備衛兵隊への入隊希望を認め、次男のテイラーを次期当主にという長男直々の推薦も了承するなど、その実行力も発言力は小さくない。
「『隊長殿』とは遠慮深い!私は貴殿を買っておる!我がドファーニ商会護衛隊に正式に加わった際はぜひ今と同じ呼称で呼ばれたいと思うが、今はまだ貴殿はドファーニ商大会長からの依頼受注冒険者ではないか!気安く『サイラー』と呼んでほしい!ガッハッハッ!!」
「そ、そうですな……えぇ……そ、その…で、では…あ~…サイラー…殿……」
豪快に笑い飛ばしてはくれるが、将来的に自分の長となるかもしれない男に対してそう気軽にもなれない。
シェイジンは引き攣った笑顔を向けながら、素早く頭の中で状況を整理し、報告すべきことと仰ぐべき指示を求める言葉を探す。
「うむ!して、先ほど確認させてもらった件だが」
「あ、うん。そ、そうなのだ……いや、『です?』……ああっ、えいクソッ!!」
ガシガシと頭を掻くと、考えることも面倒だとシェイジンは取り繕うことを止めた。
だいたい体制や礼儀などをきっちり守れるような性格であれば、最初から冒険者などより収入の安定した職業についていただろう。
「サイラー…ども、いや殿どの。ああ、こいつらがそうだ。どこのバカに唆されたのかわからんが、この商隊護衛たちは皆年寄りばかりだと思われていたらしいぞ?」
「何だとぉ~~……?」
ズモモモモ…というか、ゴゴゴゴ…という擬音が似合いそうなぐらい、サイラーは威圧感を高める。
その迫力に思わずシェイジンは半歩ほど後ずさりしようとしてなんとか踏み止まったが、地面に転がされた盗賊たちはたまらず白目を剥いて気絶した。


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