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納得しない者。
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バルトロメイを自分の商会が関与する宿に確保し、ついでに荷馬車も愛馬も丸ごと保護をする──考えてみれば、大商人として名を馳せるテイラー・ドファーニという人間は、本来そこまで赤の他人に対して何ら見返りを求めずに自分の懐を広げはしない。
むろんこの旅に同行させるきっかけは『怪我をした馬をバルトロメイが採取した納品物を分けて助けてくれた』というものだが、それとて自分たちの乗る馬車に招いて食客のような扱いで目的地まで乗せて行ってやるつもりだったのに、ふたを開けてみれば普通に旅するには十分すぎるほどの餞別どころか、それらを積める荷馬車に引っ張る馬まで献上されるという贔屓っぷり。
これは何かあるかと面白がって商隊の最後尾を任せてみたら、今までになく快適な行商旅となりつつあった。
何より魔物が出ない。
冒険者ギルドに出される初心者向けの依頼の多くが薬草摘みだが、ビンの町ではそれが異常なほど多いのは、バルトロメイが受けて納品したように様々な薬草の群生があるからだ。
だから旅行者があの町のそばを通れば必ず魔除けの匂い袋や松明などを購入するのだが、今回仕入れた者の大半はバルトロメイが持ってきた物らしく、同じ商品をずっと扱っているドファーニから見て『極上品』と値をつけてもいいくらいのレベルの物ばかり。
さすがにもう少しランクを下げて──そう思わないでもなかったが、逆に町に流通している物の品質が差が激しすぎるとこの先困るという理由で、商売人としては逃せないほどの破格を提示されてしまった。
仕入れ値的には普通の物と比較すると1.5倍ほどになったが、売値はその2倍…いや3倍でも売れるだろう。
それどころか数量限定ということを考えれば、出すべきところには惜しまず金を使う人物に見せればさらに上乗せしても文句は言われないはずだ。
考えつくのは辺境地の貴族に、ダンジョンといわれる魔物が湯水のように沸いて危険と隣り合わせに魔石や魔物素材を狩れる場所近くにある迷宮都市を治める者、それに炭坑や鉱山など危険と隣り合わせの職場でも求められるに違いない。
特に最後の思い辺りは『処刑場いらずの罪人使い潰し所』と思われているが、実際のところちゃんと働けば給料ももらえるし、罪があるのならばその刑期分だけ拘束されて他の作業人より安い賃金で働かされるというだけだ。
死ぬのならばぜひ己の故郷に帰ってからにしてほしいし、怪我や病気を放置するような悪環境ではない。
だが危険を伴うのは噂通りなので、よけい薬草などが必要となるのだ。
そういった商売に有益な物をもたらしてくれた少年であると説明されても、宿の主であるジュンガにとってはあまり納得はいっていない。
何せあの部屋は本来使用人を泊める部屋──つまりは20人ぐらいの人間を連れ歩いても懐具合を心配する必要のない大金持ちが宿の一番いい部屋に腰を落ち着けるという寸法だ。
なのにあの部屋にいるのはたった2人。
しかも新婚でもないし、馬と共に引き込んだ荷馬車には荷物がたんまり積まれており、あの2人の師匠だというのはくたびれた冒険者である。
ちなみにその『くたびれた冒険者』ことシェイジンはこの宿の2人相部屋を別の冒険者と共に使っているが、費用はどれもドファーニが出していた。
これは彼らだけが贔屓されているわけではなく、この宿に泊まっている冒険者限定で宿代も込みの雇用というだけである。
他の定宿があったり、所属ギルド指定の場所に停まっている冒険者に対しては別に手当てが出ているので、それを納得して契約した冒険者たちが文句を言うことはない。
だがジュンガにしてみれば20人泊まれる部屋が使われているのに、2人分の宿賃が入ってこないことが業腹なのである。
むろんこの旅に同行させるきっかけは『怪我をした馬をバルトロメイが採取した納品物を分けて助けてくれた』というものだが、それとて自分たちの乗る馬車に招いて食客のような扱いで目的地まで乗せて行ってやるつもりだったのに、ふたを開けてみれば普通に旅するには十分すぎるほどの餞別どころか、それらを積める荷馬車に引っ張る馬まで献上されるという贔屓っぷり。
これは何かあるかと面白がって商隊の最後尾を任せてみたら、今までになく快適な行商旅となりつつあった。
何より魔物が出ない。
冒険者ギルドに出される初心者向けの依頼の多くが薬草摘みだが、ビンの町ではそれが異常なほど多いのは、バルトロメイが受けて納品したように様々な薬草の群生があるからだ。
だから旅行者があの町のそばを通れば必ず魔除けの匂い袋や松明などを購入するのだが、今回仕入れた者の大半はバルトロメイが持ってきた物らしく、同じ商品をずっと扱っているドファーニから見て『極上品』と値をつけてもいいくらいのレベルの物ばかり。
さすがにもう少しランクを下げて──そう思わないでもなかったが、逆に町に流通している物の品質が差が激しすぎるとこの先困るという理由で、商売人としては逃せないほどの破格を提示されてしまった。
仕入れ値的には普通の物と比較すると1.5倍ほどになったが、売値はその2倍…いや3倍でも売れるだろう。
それどころか数量限定ということを考えれば、出すべきところには惜しまず金を使う人物に見せればさらに上乗せしても文句は言われないはずだ。
考えつくのは辺境地の貴族に、ダンジョンといわれる魔物が湯水のように沸いて危険と隣り合わせに魔石や魔物素材を狩れる場所近くにある迷宮都市を治める者、それに炭坑や鉱山など危険と隣り合わせの職場でも求められるに違いない。
特に最後の思い辺りは『処刑場いらずの罪人使い潰し所』と思われているが、実際のところちゃんと働けば給料ももらえるし、罪があるのならばその刑期分だけ拘束されて他の作業人より安い賃金で働かされるというだけだ。
死ぬのならばぜひ己の故郷に帰ってからにしてほしいし、怪我や病気を放置するような悪環境ではない。
だが危険を伴うのは噂通りなので、よけい薬草などが必要となるのだ。
そういった商売に有益な物をもたらしてくれた少年であると説明されても、宿の主であるジュンガにとってはあまり納得はいっていない。
何せあの部屋は本来使用人を泊める部屋──つまりは20人ぐらいの人間を連れ歩いても懐具合を心配する必要のない大金持ちが宿の一番いい部屋に腰を落ち着けるという寸法だ。
なのにあの部屋にいるのはたった2人。
しかも新婚でもないし、馬と共に引き込んだ荷馬車には荷物がたんまり積まれており、あの2人の師匠だというのはくたびれた冒険者である。
ちなみにその『くたびれた冒険者』ことシェイジンはこの宿の2人相部屋を別の冒険者と共に使っているが、費用はどれもドファーニが出していた。
これは彼らだけが贔屓されているわけではなく、この宿に泊まっている冒険者限定で宿代も込みの雇用というだけである。
他の定宿があったり、所属ギルド指定の場所に停まっている冒険者に対しては別に手当てが出ているので、それを納得して契約した冒険者たちが文句を言うことはない。
だがジュンガにしてみれば20人泊まれる部屋が使われているのに、2人分の宿賃が入ってこないことが業腹なのである。
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