58 / 259
教える者。
しおりを挟む
彼女こそは『石』と名のつくものに関してのスペシャリストで、かなりのマニアらしい。
というのは、勢い込んだ受け付け嬢の様子にギクリと肩を揺らして軽く腰を上げかけたギルドマスターが、「その剣の性質に関して、2人で意見交換するといい」と言ってそそくさと部屋を出てしまったことからもわかる。
長い。
とにかく長い。
単に『石』という物質だと思っていた物は山から『まぐま』という超高温状態で飛び出して冷え固まった物や、海の中にある『さんご』や『かい』という物や植物が長い時間をかけて水や風によってどんどん運ばれ積まれて固まった物、鉄分を含んだ物、炭素を含んだ物、さらに熱で溶けてまた再結晶した物、地震などで地面同士でくっついたり圧しつけたりぶつかってまた違うものになる物、含まれる物質によって結晶化して綺麗な『げんせき』と言われる物、魔力が体内で凝って『魔石』となること、魔力を人工的に寄せ集めて圧縮して作られる結晶が『魔法石』であること、またその魔法石となる魔力は同種同列または上下の系統でなければ魔力を持たないこと──
「あっ、あのっ、あのあのあの!」
「……え~、ですので………あ、何かおっしゃいました?」
「あっ、あの!はい!師匠!」
「し…師匠……」
つい習う時の癖で思わず女性に対して『師匠』と呼び掛けてしまったが、思いがけずその言葉は彼女の心を射抜いたようで、流れる水の如く発せられていた『石の知識』がせき止められた。
「……はい……はいっ……もうっ!何でも聞いてくださいっ!ワタクシッ!あなたの『石の師匠』になります!!」
「はいっ!師匠!」
「はい!何でしょうかっ?!」
「よくわかりませんでしたっ!!」
バルトロメイのこの素直な一言が、受付嬢の知識発露の場を見出すことになろうとは思いもしなかった。
装備だけでなく糧食など必要な物を揃えるために2日か3日ほど滞在する予定だったその町──ビンに来てから、実に3週間も時間が経ってしまった。
手元には3冊の『たいぷらいたぁ』という機械で打ち出された紙の束がある。
1週間に1度、件の受付嬢がヘロヘロになりながら1章ずつ届けてくれる『石について』の知識本であったが、まだちゃんと製本できるレベルではないということで、まずはこれを読んでほしいと渡してくれる物だ。
「ふむふむ……」
読みやすい文章に読みやすい字のおかげで、石の知識もさることながら、『人間の言葉』の勉強にとても役立った。
バルトバーシュの書く文字は綺麗ではあったが、急いで書くときは手書きにありがちな綴り文字だったため、バルトロメイはその崩された形を読むことができなかったのである。
そうしてもうひとりの師匠であるマクロメイに関しては書くよりも実践派で、「説明は文字より言葉、それよりも実践で覚えろ」と言い張り、自分が教えたいことを紙に書くことをできるだけ回避するような人間であった。
というのは、勢い込んだ受け付け嬢の様子にギクリと肩を揺らして軽く腰を上げかけたギルドマスターが、「その剣の性質に関して、2人で意見交換するといい」と言ってそそくさと部屋を出てしまったことからもわかる。
長い。
とにかく長い。
単に『石』という物質だと思っていた物は山から『まぐま』という超高温状態で飛び出して冷え固まった物や、海の中にある『さんご』や『かい』という物や植物が長い時間をかけて水や風によってどんどん運ばれ積まれて固まった物、鉄分を含んだ物、炭素を含んだ物、さらに熱で溶けてまた再結晶した物、地震などで地面同士でくっついたり圧しつけたりぶつかってまた違うものになる物、含まれる物質によって結晶化して綺麗な『げんせき』と言われる物、魔力が体内で凝って『魔石』となること、魔力を人工的に寄せ集めて圧縮して作られる結晶が『魔法石』であること、またその魔法石となる魔力は同種同列または上下の系統でなければ魔力を持たないこと──
「あっ、あのっ、あのあのあの!」
「……え~、ですので………あ、何かおっしゃいました?」
「あっ、あの!はい!師匠!」
「し…師匠……」
つい習う時の癖で思わず女性に対して『師匠』と呼び掛けてしまったが、思いがけずその言葉は彼女の心を射抜いたようで、流れる水の如く発せられていた『石の知識』がせき止められた。
「……はい……はいっ……もうっ!何でも聞いてくださいっ!ワタクシッ!あなたの『石の師匠』になります!!」
「はいっ!師匠!」
「はい!何でしょうかっ?!」
「よくわかりませんでしたっ!!」
バルトロメイのこの素直な一言が、受付嬢の知識発露の場を見出すことになろうとは思いもしなかった。
装備だけでなく糧食など必要な物を揃えるために2日か3日ほど滞在する予定だったその町──ビンに来てから、実に3週間も時間が経ってしまった。
手元には3冊の『たいぷらいたぁ』という機械で打ち出された紙の束がある。
1週間に1度、件の受付嬢がヘロヘロになりながら1章ずつ届けてくれる『石について』の知識本であったが、まだちゃんと製本できるレベルではないということで、まずはこれを読んでほしいと渡してくれる物だ。
「ふむふむ……」
読みやすい文章に読みやすい字のおかげで、石の知識もさることながら、『人間の言葉』の勉強にとても役立った。
バルトバーシュの書く文字は綺麗ではあったが、急いで書くときは手書きにありがちな綴り文字だったため、バルトロメイはその崩された形を読むことができなかったのである。
そうしてもうひとりの師匠であるマクロメイに関しては書くよりも実践派で、「説明は文字より言葉、それよりも実践で覚えろ」と言い張り、自分が教えたいことを紙に書くことをできるだけ回避するような人間であった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
永屋町怪道中
描き人 トッシュ
ファンタジー
人々に忌み嫌われながら暮すとあるおくりびとは、ひょんな事から謎の紳士によって「永屋町」に連れて行かれます。
謎と奇怪はおくりびとを巻き込んで踊り狂出だした。
さあ、おくりびとはその先に何を見る?
(pixiv掲載は停止しています。)
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。


ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる