間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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教える者。

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彼女こそは『石』と名のつくものに関してのスペシャリストで、かなりのマニアらしい。
というのは、勢い込んだ受け付け嬢の様子にギクリと肩を揺らして軽く腰を上げかけたギルドマスターが、「その剣の性質に関して、2人で意見交換するといい」と言ってそそくさと部屋を出てしまったことからもわかる。

長い。
とにかく長い。

単に『石』という物質だと思っていた物は山から『まぐま』という超高温状態で飛び出して冷え固まった物や、海の中にある『さんご』や『かい』という物や植物が長い時間をかけて水や風によってどんどん運ばれ積まれて固まった物、鉄分を含んだ物、炭素を含んだ物、さらに熱で溶けてまた再結晶した物、地震などで地面同士でくっついたり圧しつけたりぶつかってまた違うものになる物、含まれる物質によって結晶化して綺麗な『げんせき』と言われる物、魔力が体内で凝って『魔石』となること、魔力を人工的に寄せ集めて圧縮して作られる結晶が『魔法石』であること、またその魔法石となる魔力は同種同列または上下の系統でなければ魔力を持たないこと──

「あっ、あのっ、あのあのあの!」
「……え~、ですので………あ、何かおっしゃいました?」
「あっ、あの!はい!師匠!」
「し…師匠……」
つい習う時の癖で思わず女性に対して『師匠』と呼び掛けてしまったが、思いがけずその言葉は彼女の心を射抜いたようで、流れる水の如く発せられていた『石の知識』がせき止められた。
「……はい……はいっ……もうっ!何でも聞いてくださいっ!ワタクシッ!あなたの『石の師匠』になります!!」
「はいっ!師匠!」
「はい!何でしょうかっ?!」
「よくわかりませんでしたっ!!」
バルトロメイのこの素直な一言が、受付嬢の知識発露の場を見出すことになろうとは思いもしなかった。


装備だけでなく糧食など必要な物を揃えるために2日か3日ほど滞在する予定だったその町──ビンに来てから、実に3週間も時間が経ってしまった。
手元には3冊の『たいぷらいたぁ』という機械で打ち出された紙の束がある。
1週間に1度、件の受付嬢がヘロヘロになりながら1章ずつ届けてくれる『石について』の知識本であったが、まだちゃんと製本できるレベルではないということで、まずはこれを読んでほしいと渡してくれる物だ。
「ふむふむ……」
読みやすい文章に読みやすい字のおかげで、石の知識もさることながら、『人間の言葉』の勉強にとても役立った。
バルトバーシュの書く文字は綺麗ではあったが、急いで書くときは手書きにありがちな綴り文字だったため、バルトロメイはその崩された形を読むことができなかったのである。
そうしてもうひとりの師匠であるマクロメイに関しては書くよりも実践派で、「説明は文字より言葉、それよりも実践で覚えろ」と言い張り、自分が教えたいことを紙に書くことをできるだけ回避するような人間であった。


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