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奪う者。
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思い出したのは岩の切り崩しをひとしきり終え、砂ぼこりを綺麗に拭い去った後──
「ぬっ、抜けねぇぇっ!!」
騒ぎに後ろを振り返ったバルトロメイは、さっきまで自分が握っていた剣をずいぶんと背の小さい男が盗もうとしているのを見つめた。
四角に切り分けた石の上に置かれたその鞘は動かされた形跡がなく、どうやら抜き身で持ち去ろうとしていたらしいのだが、その柄を手にしたまま小男はその場を動こうとしない。
「何だ何だぁ?」
ゲラゲラと笑いながら、マトリョーシカのように少し小さい男、中くらいの男、普通の大きさの男、それよりも背の高い男、そして皆より頭ふたつもデカい男とゾロゾロとやってきた。
これから一体何が起こるのだろうと見つめるバルトロメイのことを馬鹿にしたような目付きで眺め、そのままの表情で歯を食いしばり渾身の力で石の上に置かれた剣を持ち去ろうとしている小男を鼻で笑う。
それも1人2人ではなく、全員の男たちが、だ。
「ケッ。情けねぇ。他人様のモノを盗もうっていうのに、そんなデケェ声出しやがってよぉ」
「お前は身体に見合った獲物を探しゃぁいいんだよ!」
「そうそう……そのご立派な剣は俺らがもらってやるよ!なぁ、坊主?」
「えっ?」
突然小男から自分へと声がやってきて、バルトロメイはびっくりした。
だいたいこの連中に知り合いなどいない──もっと言うならば、先ほどこの大岩をどかす手伝いをしようとするまで、この道にたむろしていた男たちのことすら知らなかったのである。
なのになぜこの男たちは、いきなりバルトロメイの剣を持って行こうとするのか、さっぱりわからない。
「いえ、その剣は僕のですから。置いといてください」
「ギャハハハハハハハ───ッ!!こいつバカだぜぇ?!俺らがもらうっつってんだから、素直に差し出しゃぁいいんだよ!」
「えっ?何でですか?」
どんな理屈でそうなるのかさっぱりわからず、やはりキョトンとした表情でバルトロメイは問い返す。
馬鹿笑いしている中くらいの男を無視して、普通サイズの男が小男の手から柄を奪おうとし──
「グギャァァァァァァァァァァッ!!」
ジュゥッと激しい音と共に、肉が焼ける匂いが立ち上ったかと思うと、男2人はそれぞれ自分の手を庇うようにして地面に崩れ落ちてゴロゴロと転がった。
何が起こったのかわからなかったのはバルトロメイだけでなく、その場にいた全員が酷い火傷を負ったその手のひらに視線を釘付ける。
「なっ……何がっ……」
「クッ……お前……かなりの値打ちモンを持ってやがったな?!」
「は?」
「きっとこの鞘は耐火性のある魔物製だ!コイツごといただいていくぜっ!………………」
「…………………………………」
ガッと石の上にあった鞘ごと剣を掴んだ──はずの大男は、ジュッと先ほどの2人と同じような音を立てながらもその場を動こうとしない。
というより、動けない。
「ぅぅっ……グッ……グッソォォォォォ───ッ!イデェェエェェェェェ───ッ!!ヤッ、ヤメデグレェェェェェェェ───ッ!!」
しばらく何かに耐えるように歯を食いしばっていたが、突然叫び出すと鞘を掴んだままの手を持ち上げようとしたのに何故かそれは叶わず、逆にガタガタと歯を鳴らして身体を丸めて沈み込んでいく。
「あっ、兄貴?!」
何と仲間思いなのか、笑い転げていたはずの中くらいの男が素早く大男に近付き、剣を持つ手に触れようとし──
「つっ、冷てぇぇぇぇぇっ?!なっ、何だこりゃぁっ?!」
バルトロメイが剣を何気なく置いたその石は今や水気どころかあり得ないほどの冷気を放ち、大男の手も、助けようとした中くらいの男の手もべったりと貼りつかせて徐々に凍らせていた。
「…………は?石が………凍った………?」
「みたいです。でも、僕が触った時には確かに石は凍っていたんですけど、手のひらが貼り付くほどじゃなくって……剣も鞘も全然冷えてなくて」
「…………はぁ………」
さらに聞けば、バルトロメイと手癖の悪い男たちの騒ぎはもちろん周囲に知れ渡り、自分たちより弱いと見るとその持ち物を奪うことを生業にしていたその男たちはすんなりと冒険者ギルドと町の自衛団の者たちに捕縛された。
1人ずっと傍観していた大男と普通サイズの男の間ぐらいの男だけはどこかに逃げ出したようだが、他の者たちは仲良く牢屋にぶち込まれて、今まで力づくで奪ってきた物やバルトロメイのように持ち主が目を離した隙に盗んだ物などかなりの余罪を追及されているらしい。
「熱くなったり冷えたりする剣……か……素材はわかるか?」
「さぁ……武器屋の親方は『希少石』としか教えてくれなくて」
「希少石…希少石……いくつかありますね、『ファイヤー』の効果を持つ石や『アイス』の効果を持つ石……でも、一緒に鍛えることはできないはずですが……?」
「そうなんですか?」
「はい。そういった魔法石もしくは魔物の体内から抽出される魔石は正反対の性質を持つ物との相性が悪く、どちらか一方の力がもう一方を抑え込んだり、相殺されて何も結果が出ないはずなんです!」
ギルドマスターよりも勢い込んで受付嬢がそう教えてくれた。
「ぬっ、抜けねぇぇっ!!」
騒ぎに後ろを振り返ったバルトロメイは、さっきまで自分が握っていた剣をずいぶんと背の小さい男が盗もうとしているのを見つめた。
四角に切り分けた石の上に置かれたその鞘は動かされた形跡がなく、どうやら抜き身で持ち去ろうとしていたらしいのだが、その柄を手にしたまま小男はその場を動こうとしない。
「何だ何だぁ?」
ゲラゲラと笑いながら、マトリョーシカのように少し小さい男、中くらいの男、普通の大きさの男、それよりも背の高い男、そして皆より頭ふたつもデカい男とゾロゾロとやってきた。
これから一体何が起こるのだろうと見つめるバルトロメイのことを馬鹿にしたような目付きで眺め、そのままの表情で歯を食いしばり渾身の力で石の上に置かれた剣を持ち去ろうとしている小男を鼻で笑う。
それも1人2人ではなく、全員の男たちが、だ。
「ケッ。情けねぇ。他人様のモノを盗もうっていうのに、そんなデケェ声出しやがってよぉ」
「お前は身体に見合った獲物を探しゃぁいいんだよ!」
「そうそう……そのご立派な剣は俺らがもらってやるよ!なぁ、坊主?」
「えっ?」
突然小男から自分へと声がやってきて、バルトロメイはびっくりした。
だいたいこの連中に知り合いなどいない──もっと言うならば、先ほどこの大岩をどかす手伝いをしようとするまで、この道にたむろしていた男たちのことすら知らなかったのである。
なのになぜこの男たちは、いきなりバルトロメイの剣を持って行こうとするのか、さっぱりわからない。
「いえ、その剣は僕のですから。置いといてください」
「ギャハハハハハハハ───ッ!!こいつバカだぜぇ?!俺らがもらうっつってんだから、素直に差し出しゃぁいいんだよ!」
「えっ?何でですか?」
どんな理屈でそうなるのかさっぱりわからず、やはりキョトンとした表情でバルトロメイは問い返す。
馬鹿笑いしている中くらいの男を無視して、普通サイズの男が小男の手から柄を奪おうとし──
「グギャァァァァァァァァァァッ!!」
ジュゥッと激しい音と共に、肉が焼ける匂いが立ち上ったかと思うと、男2人はそれぞれ自分の手を庇うようにして地面に崩れ落ちてゴロゴロと転がった。
何が起こったのかわからなかったのはバルトロメイだけでなく、その場にいた全員が酷い火傷を負ったその手のひらに視線を釘付ける。
「なっ……何がっ……」
「クッ……お前……かなりの値打ちモンを持ってやがったな?!」
「は?」
「きっとこの鞘は耐火性のある魔物製だ!コイツごといただいていくぜっ!………………」
「…………………………………」
ガッと石の上にあった鞘ごと剣を掴んだ──はずの大男は、ジュッと先ほどの2人と同じような音を立てながらもその場を動こうとしない。
というより、動けない。
「ぅぅっ……グッ……グッソォォォォォ───ッ!イデェェエェェェェェ───ッ!!ヤッ、ヤメデグレェェェェェェェ───ッ!!」
しばらく何かに耐えるように歯を食いしばっていたが、突然叫び出すと鞘を掴んだままの手を持ち上げようとしたのに何故かそれは叶わず、逆にガタガタと歯を鳴らして身体を丸めて沈み込んでいく。
「あっ、兄貴?!」
何と仲間思いなのか、笑い転げていたはずの中くらいの男が素早く大男に近付き、剣を持つ手に触れようとし──
「つっ、冷てぇぇぇぇぇっ?!なっ、何だこりゃぁっ?!」
バルトロメイが剣を何気なく置いたその石は今や水気どころかあり得ないほどの冷気を放ち、大男の手も、助けようとした中くらいの男の手もべったりと貼りつかせて徐々に凍らせていた。
「…………は?石が………凍った………?」
「みたいです。でも、僕が触った時には確かに石は凍っていたんですけど、手のひらが貼り付くほどじゃなくって……剣も鞘も全然冷えてなくて」
「…………はぁ………」
さらに聞けば、バルトロメイと手癖の悪い男たちの騒ぎはもちろん周囲に知れ渡り、自分たちより弱いと見るとその持ち物を奪うことを生業にしていたその男たちはすんなりと冒険者ギルドと町の自衛団の者たちに捕縛された。
1人ずっと傍観していた大男と普通サイズの男の間ぐらいの男だけはどこかに逃げ出したようだが、他の者たちは仲良く牢屋にぶち込まれて、今まで力づくで奪ってきた物やバルトロメイのように持ち主が目を離した隙に盗んだ物などかなりの余罪を追及されているらしい。
「熱くなったり冷えたりする剣……か……素材はわかるか?」
「さぁ……武器屋の親方は『希少石』としか教えてくれなくて」
「希少石…希少石……いくつかありますね、『ファイヤー』の効果を持つ石や『アイス』の効果を持つ石……でも、一緒に鍛えることはできないはずですが……?」
「そうなんですか?」
「はい。そういった魔法石もしくは魔物の体内から抽出される魔石は正反対の性質を持つ物との相性が悪く、どちらか一方の力がもう一方を抑え込んだり、相殺されて何も結果が出ないはずなんです!」
ギルドマスターよりも勢い込んで受付嬢がそう教えてくれた。
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