間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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違う者。

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それから2人は防具屋に行き、軽い革鎧とブーツを購入した。
ここでも金を出そうとしたマロシュ老を押し止め、バルトロメイは自分で得た『お駄賃』を貯めていた革袋から金を出して身なりを整える。
それは貯まった銅貨を計算の練習に使って次々と大きな価値の物に交換し、最終的にまとまった金額になった時にマロシュ老がちゃんと同価値の小銀貨1枚に交換してくれたのだが、それを惜しげもなくカウンターに置くと店主の目が狡賢く光った。
「おお?何だ、坊主……お前さん、案外金持ちだなぁ。なら……」
「おいおい。この子はわしの大事な孫みたいなもんじゃ。いいかげんな商売をしようとしたら、容赦せんぞ?」
ジロリとマロシュ老が睨み付けると防具屋の店主はチッと舌打ちをしたが、会計の際に懲りずにコソッとバルトロメイに囁きかけてきた。
「いいか、坊主?こんな安もんじゃあお前さんの命なんざあっという間に散っちまう…悪いことは言わんから、後で戻って来いや。もっといい鎧を用意して待っててやるよ」
ニヤニヤそう言って笑う店主の顔はどす黒く、あからさまにバルトロメイを舐めてかかっているのがわかる。
きっとノコノコと戻ってきたらいいカモだとばかりに粗悪品を押し付けるに違いない──とまで見抜いたのは、聞こえてないふりでバルトロメイだけに話しているつもりの店主の声をしっかり拾ったマロシュ老だった。
「まさか戻りゃせんよな?」
「え?」
「あの店主、わしもお前さんも見る目がないと思って二束三文のガラクタでも押し付ける気じゃろうて」
「にそくさんもん?」
「『価値がない』っちゅうこった」
「ふぅん……行かないよ?僕」
「そうかそうか……それがええ。良い子じゃの、お前さん」
そんなやり取りがあったのも知らず、防具屋の店主はゴミ同然の使い捨てられた鎧を見た目だけ整えてカモを待ったが、当然のことながら待ちぼうけを喰らったのだった。


武器に関してはマロシュ老ではなく町を出て行った弟のドウシュが懇意にしていた店があり、そこでは正直にドウシュがもうこの世にいないこと、そしてバルトロメイに本当の遺児に遺品を渡してもらいに行くことを話した。
「……そうか……あのやんちゃ坊主……いっぺんも帰ってこねぇで……」
「あんたさんがアレに良くしてくれていたのは知っとったよ。迷惑もたんと掛けたと思うがの」
「いやいや……あいつのおかげで、本当ならギルドに高い依頼料を払って出さなきゃならない獣の材料なんかを格安で捕ってきてくれてなぁ……あんたさんには言うなと口止めされてたから言えんかったが、なかなかいい腕前だったよ」
「なんと!」
「この町で冒険者登録しちまったら、親父さんたちにもバレちまうからできないと言ってたが……そうか……ちゃんと稼げる冒険者になっとったのかもしれんなぁ……」
鼻を啜りあげながら笑う人の良さそうな店主は、店の中で最上とは言えないまでも、バルトロメイの手にちょうどいい長剣を取り出した。
「こいつぁちょっと変わっててな。希少石の屑が手に入ったんだが量がまとまらんくて。試しにと思って細かく砕いてから鉄剣の表側に薄く貼り付けたもんなんだ。不思議なことに鍛えるたんびに剣の中に溶け込んじまって、見た目は普通の剣と変わらんだろう?俺に剣の才能はないが、それでもぶっとい丸太がまるでゼリーのように切れちまう」
「ほぉほぉ……」
「誰にも譲る気にならんかったおかしな剣さ。よければこいつを持ってってくれ!代金は中銅貨50枚でどうだい?」
「はい」
普通の鉄剣であれば中銅貨10枚というところだが、値切りもせずにバルトロメイは素直に中銅貨を数えて出した。
「……良い子じゃねぇか!良い子過ぎて、ちょっと心配になっちまうな」
「だろう?」
バルトロメイには理解できなかったが、年長者は揃って大きなため息をついた。
「まったく……俺んとこは防具屋じゃないから大したもんはないが、ほれ、この片盾も持って行けよ」
そう言うと腕に装着するタイプの軽い盾も出して、断られるのを待たずにバルトロメイの腕につけてやる。
「……絶対その娘さんにあいつの小刀、届けてやってくれな?」
グスッと鼻を啜りながらバシッとバルトロメイの背中をひとつ叩くと、さらに長剣を収めるための石犀という獣の皮でできた鞘まで付けてくれた。
さっきの防具屋とは対応が段違いであることに戸惑うバルトロメイの頭を大きな手のひらで撫でまわし、鼻と目は赤いままニカッと笑う。
その顔つきもやはりさっきの防具屋と違い、神殿にいる者たちとこうやって暮らしている者たちにそう違いはないとわかった。


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