間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
29 / 259

守られる者。

しおりを挟む
ふっと圧力が抜けたと思った瞬間、まるで見えない手のひらで上から押さえつけられるように空気が重くなる。
表現しようのない『何か』の叫び声が森の方から聞こえた。
「────まさかっ?!」
逡巡し、沈黙の後に出た叫びは誰のものだったのか。
「クソッ……ここには訓練用の武器しか持ってきていない!無いよりはマシだが、この家にも何か武器はないかっ?!」
「古い農工具なら、まだ納屋の方に置いてある!防具魔術の使える者!てめえらの持ってきた獲物と農工具と、ありったけ全部強化の魔術を施せ!結界魔法を使える者!あっちの建物に残ってる奴はいないな?!」
「おりません!!」
「なら、とりあえずはこの敷地内だけに結界を張れるだけ重ねて張れ!張り終わったら余力のある者から順番に途切れさせないよう継続し続けろ!」
「僧兵候補たち!今こそ神殿本館の間抜け者どもに泡吹かせる時と知れ!武具に攻撃魔法を纏わせられる者は残留魔力に注意し、的確に仕留めよ!対または4人で隊を組み、けっして単独では行動するな!散れっ!!」
「はっ!!」
ザッと一糸乱れぬ統率を見せる僧兵の数は20名足らず。
聖ガイ・トゥーオン神殿にある僧兵隊の本隊はその10倍の200名。
引退した者やトゥーオンの名を冠にした小神殿にいる者たちを合わせればさらに3倍4倍と人数は増えるだろうが、これだけの統率された動きはできないだろう。

「お、お師匠……さま……」
「大丈夫ですよ。あなたに下心を抱かなかったあのエクルー神官は、現在いる聖ガイ・トゥーオン神殿の僧兵隊だけでなく、歴代の総隊長の誰よりも強い。そしてマクロメイもまた……私がおそらくあなたの周りにいる『師匠』としては一番弱い。しかしだからこそ、私の側を離れてはいけませんよ?」
「はい」
少年は素直に師匠の言葉に頷く。

バルトバーシュの言葉は嘘ではない。
彼の魔力は神殿ではどのような属性があるの、父親の家系由来のものは極表面的なものとしかわからず、潜在的な魔力の大きさこそ判明したものの、それが一体どうやって発現するのかはまだわかっていなかった。
しかし多岐にわたる『修行』の中でも特に未解明の神語や古代語などの翻訳に際してバルトバーシュの魔力が反応したため、おそらくはそれらを研究すれば自ずと解明されるであろうという仮説の元、日々その仕事に従事してきたのである。
そして確かにバルトバーシュが意味を翻訳した神語は今まで人間の言葉で唱えていた祈祷のどれよりも効果が発揮され、辺境の地にありながら聖地のひとつとされるほどに、聖ガイ・トゥーオン神殿の名を上げることに貢献した。
だが彼の肉体的な部分では僧兵よりもはるかに劣り、腕力でもって誰かを助けるよりは助けられる方に徹した方が迷惑をかけないし、結界は張れるがせいぜいこの家の守りを固めるぐらいがせいぜいである。
マクロメイについて森の中で狩りを──正確には彼が仕掛けた罠から獲物を取って来るだけなのだが──してくるとはいえ、バルトロメイ自身どれくらい武力を揮えるかは定かではない。
だからこそ、神官たちの動きを阻害することはできないのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...