間の悪い幸運勇者

行枝ローザ

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解く者。

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エクルー神官だけが入れた質素な家はもう『家畜小屋』でも『物置』でもなく、本当に普通の『家』だった。
むしろ上等な石を多用された神殿よりも居心地よく、住みやすいかもしれない。
「これはいったい……」
「んー?何でかわからんが、神殿本館そっちから『物資は一切まわせない』というお達しでな。仕方がないから俺の風魔法とバルトバーシュの建築知識と……たぶん、あのガキの『知り合い』からの貢ぎ物である大量の材木で作ったよ」
マクロメイが差す先には、バルトバーシュと共に裏庭らしき場所に張られた物干し紐から乾いた洗濯物を取り込む少年がいる。
「ガキ……………」
「………お前さんと共に、大神官長様がご不在だったんだ。たまたま神語を研究していたバルトバーシュがあのガキと意思疎通ができたっていうことであいつが教育係になったが、さもなきゃバカどもが寄ってたかってあいつをひん剥いて、そのまま使い捨てて、文字通り裏にでも捨ててだろうよ」
「そんな……」
「あれでもマシになったんだ。バルトバーシュがあいつから聞き出した神語を繋ぎ合わせたところによると、どうやら精霊や妖精を『両親』代わりに、人間が一切いない異族種が『きょうだい』っていう疑似的家族だったらしい。たぶん煮たり焼いたりっていう俺たちが食っているような食生活ではなかったんだろうな」
少年の『家族』たちは材木を用意してはくれたが、それらを繋ぎ合わせるための釘や切るためののこぎりなどといった道具はなかったため、風魔法で薄板に加工してからバルトバーシュの知識の中にあった古い建築法で『木組み』という方法で作られた家の中で、エクルーは細い腕で洗濯物の入った籠を持つ少年を見つめた。
「俺は立ち会わなかったが、バルトバーシュが見つけた時、本当に手足は枝のようで……だが不思議なことに筋肉はしっかりしていたというから、きっと不可思議な加護を受けてその『家族』の中で生き抜けたんじゃないかというのだが」
「なるほど……」
妖精や精霊、獣人や魔族など人間以外にも多種多様で、しかも意思疎通のしようがないと思われている異族種の食生活などはさらに想像がつきにくい。
しかもどうやら食物を加熱したり加工することもなく、彼らはほぼ生のままで摂取していたり、回数自体が少なかったのかもしれないという。
「それは……生肉を食べたりする、ということか?」
「ああ。まず『火』というものは避けるものらしく、焙った肉を怖がって食わなかったり、スープも上澄みの澄んだところは食ってくれても、具が見えないシチューなんかは嫌っていたらしいからな」
「……どうやって食わせてたんだ?」
「初めは水と、洗っただけの葉物とか、生肉でもどうにか新鮮なものを手に入れてバルトバーシュ自身が調理して自分が食べるのを見せて……本当に野生動物の餌付けだった」
そしてその食の細さ──1日に2度の食事ではなく、3日に1度ほんのわずかだけ食べてじっと動かない。
そうしてエネルギーを貯めてから、ようやく1日動いてまた引き籠る──いったいどんな生き方をしてようやく神殿に辿り着いたのか、エクルー神官は改めて自分のために聴取したいと申し出た。


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