その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
409 / 417
第二章 アーウェン少年期 領地編

少年はお出迎えする ②

しおりを挟む
平民と貴族では、立場も責任もまるで違う──そして生まれ持つ威圧感も。
エブランはもともと男爵家の生まれで、スペアにもならない四男坊だ。
すでに長兄と三兄は婚姻して子供がいるため、末っ子の自分が家庭を持つ焦りはない。
むしろ男所帯であるターランド伯爵家警護兵や領兵隊の中で気楽に暮らす方が、自分の性に合っている。
だからと言って自分より入隊した──厳密には保護を兼ねた預り状態なのだが──ロエンが自分の主人になるはずのアーウェンに対して反抗的な態度を取ることを許容してはいなかった。
「だ、だってよぉ……」
「『だって』って、何だ?アーウェン様はターランド伯爵家のご令息だぞ?ご領主であるターランド伯爵様の領都で暮らしている以上、ご令息にも当然礼節を持って……」
「だって!そいつ、領主様の息子じゃねーじゃん!髪の色が珍しいからって、たまたま引き取られたんだろ?そんなら俺だって……」
「『俺だって』?」
エブランの目が座り、カラの目付きも厳しくなる。
『どこの馬の骨』とも言いたげなロエンの主張だが、貴族の縁故関係については出生が届けられる神殿によって管理され、ある程度金銭は必要となるが少なくとも『産まれた』ことと『死んだこと』に関する情報はキッチリ管理されていた。
そのためどの家で産まれ、育ち、誰と婚姻し、死亡し、その子孫はどこの家と縁を結んだのか──貴族家に保管されている家系図とは多少の齟齬はありつつも、信頼のおける出生記録がある。
むしろそれがなければ「貴族の子供である」という主張が通ることはない。
そしてよほどのことがなければ、貴族の家に庶民の子供が引き取られるということも起きないのである。
「……つまり、お前がどんな髪色をしていようが、お前がアーウェン様の代わりになると言うことはない」
「で、でも、だって……」
「それよりも、どうしてお前はアーウェン様が髪色で選ばれたと思っているんだ?ずっと疑問だったが……むしろ何でお前が選ばれると思っているのか、俺にはさっぱりわからん」
「え…ど、どうして……って……アレ……?」
グラッとロエンの身体が傾ぎ、目が痛むように顔を手で覆う。
「だって……本当は間違って……売るはずじゃなかったって……余計なことされたから、戻さなくっちゃいけないって……」
「おい?ロエンっ……」
声も意識も遠くなって──ロエンが最後に霞む視界に写したのは、駆け寄ってくる少年と、さらに幼く顔を恐怖に歪めて身体を動かせずにいる少年で、小さく「ざまあみろ」と呟いて意識を手放した。


しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...