407 / 417
第二章 アーウェン少年期 領地編
少年兵は帰還する ②
しおりを挟む
7日間というのは短い。
それでも悪ガキたちは何とか見られるぐらいには列を成し、統一する意思を見せ、自分たちが自分たちの町を守るのだという自負を心に刻んだのである。
ロエンにとって『この中で一番強い』というピラミッド型のグループがバラバラに存在しているのが当たり前だったのに、それがエブランというさらに上位の存在のおかげでひとつに纏まり、あまつさえ協力して行動させることに成功した。
それは成長しきって別の組織に所属している大人がまったく違う環境に放り込まれるよりも柔軟に、そして未熟さで伸びていく子供だったからこそかもしれない。
彼らのボスである強者が、さらに強者であるエブランに屈して従う姿勢を見せたためかもしれない。
もっと幼い頃からこっそりと憧れていた領都の治安を守る巡回兵が、わざわざ自分たちを鍛えるために派遣されるという情報に心が躍ったせいかもしれない。
そのどれでもいい。
たぶんロエンが祖父と父に育てられたこの家を離れたら、簡単に帰れなくなる。
そんな予感がして、この地域だけでなく祖父自身も守られて過ごせるのだと知って、少しだけ心が軽くなった。
「んじゃあ、お孫さん預かりまっす!」
「ああ……お願いします」
ニィッと元気良く笑って敬礼するエブランからロエンへ、そしてロエンからまたエブランに視線を動かした祖父は少しだけ目を潤ませ、深々と頭を下げた。
帰宅した時にはてっきり領主様の家から「もう二度と顔を見せるな」と言い捨てられて置いて行かれるのだと思ったが、今は数人の兵隊たちと共に並んで祖父の挨拶を受けている。
昨夜、突然薄汚れた感じでドカドカと雪崩れ込んできた彼らは、何故かエブランに案内されて家の中庭にテントを張って寝床をあっという間に拵え、せめて汚れと疲れを流してくれと祖父が商会の者たちに使わせている炊事場と洗濯室、そして浴室で存分に寛いでいた。
「いやぁ、宿舎であいつらに『くせぇくせぇ』って言われなくて済むなんて、ずいぶんありがたいなぁ!」
「おぉ~い!誰かこっちの洗濯物乾かしてくれ」
「次のやつ、誰だ?新しい湯を入れといたからな!」
多少でも魔力持ちばかりが住んでいるおかげで馴染みがなかったわけではないが、さすがに一気に洗濯物を乾かしてしまうほどの強力な魔術展開や、水魔法を操った後に火魔法を使える者がお湯に変えてしまったりと存分に魔力を揮うのをロエンは唖然と見ていた。
「お前も正式に領兵に加わったら、こんなのよりもっと大掛かりにやるのを見れるからな!」
「お、俺も……?」
「ああ、当たりまえだろ?まあ……お前の場合は、領都じゃなくって、アーウェン様の従属で辺境に行く可能性が高いけどな」
「え?な、何で……?」
「ん~……まあ適性がなきゃ、大隊長が違う所属を考えられるだろうけどな」
「大隊長……?」
それでも悪ガキたちは何とか見られるぐらいには列を成し、統一する意思を見せ、自分たちが自分たちの町を守るのだという自負を心に刻んだのである。
ロエンにとって『この中で一番強い』というピラミッド型のグループがバラバラに存在しているのが当たり前だったのに、それがエブランというさらに上位の存在のおかげでひとつに纏まり、あまつさえ協力して行動させることに成功した。
それは成長しきって別の組織に所属している大人がまったく違う環境に放り込まれるよりも柔軟に、そして未熟さで伸びていく子供だったからこそかもしれない。
彼らのボスである強者が、さらに強者であるエブランに屈して従う姿勢を見せたためかもしれない。
もっと幼い頃からこっそりと憧れていた領都の治安を守る巡回兵が、わざわざ自分たちを鍛えるために派遣されるという情報に心が躍ったせいかもしれない。
そのどれでもいい。
たぶんロエンが祖父と父に育てられたこの家を離れたら、簡単に帰れなくなる。
そんな予感がして、この地域だけでなく祖父自身も守られて過ごせるのだと知って、少しだけ心が軽くなった。
「んじゃあ、お孫さん預かりまっす!」
「ああ……お願いします」
ニィッと元気良く笑って敬礼するエブランからロエンへ、そしてロエンからまたエブランに視線を動かした祖父は少しだけ目を潤ませ、深々と頭を下げた。
帰宅した時にはてっきり領主様の家から「もう二度と顔を見せるな」と言い捨てられて置いて行かれるのだと思ったが、今は数人の兵隊たちと共に並んで祖父の挨拶を受けている。
昨夜、突然薄汚れた感じでドカドカと雪崩れ込んできた彼らは、何故かエブランに案内されて家の中庭にテントを張って寝床をあっという間に拵え、せめて汚れと疲れを流してくれと祖父が商会の者たちに使わせている炊事場と洗濯室、そして浴室で存分に寛いでいた。
「いやぁ、宿舎であいつらに『くせぇくせぇ』って言われなくて済むなんて、ずいぶんありがたいなぁ!」
「おぉ~い!誰かこっちの洗濯物乾かしてくれ」
「次のやつ、誰だ?新しい湯を入れといたからな!」
多少でも魔力持ちばかりが住んでいるおかげで馴染みがなかったわけではないが、さすがに一気に洗濯物を乾かしてしまうほどの強力な魔術展開や、水魔法を操った後に火魔法を使える者がお湯に変えてしまったりと存分に魔力を揮うのをロエンは唖然と見ていた。
「お前も正式に領兵に加わったら、こんなのよりもっと大掛かりにやるのを見れるからな!」
「お、俺も……?」
「ああ、当たりまえだろ?まあ……お前の場合は、領都じゃなくって、アーウェン様の従属で辺境に行く可能性が高いけどな」
「え?な、何で……?」
「ん~……まあ適性がなきゃ、大隊長が違う所属を考えられるだろうけどな」
「大隊長……?」
93
お気に入りに追加
787
あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。
下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。
ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。
小説家になろう様でも投稿しています。


【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

てめぇの所為だよ
章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる