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第二章 アーウェン少年期 領地編
伯爵は決意する ①
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当然というべきか度し難いほど若い女性が好きらしいペンティモン伯爵が迎えた夫人は、かなり年齢差があった。
貴族だろうと平民だろうと何らかの代償に娘が犠牲になるというのはあり得ない話ではなく、デビュタントを待たずに親の借金と引き換えに嫁がされ、尊厳もなく純潔が散らされたのである。
そして成人になった途端に子供を立て続けに三人も産まされ、ようやく夫に見向きされなくなった年齢に達した今、淡い気持ちを踏み潰された日々を今さらながら取り戻しているのだという夫人の告白が報告書にもあった。
「……何とも痛ましいことだ……しかし……」
ペンティモン自身は潰そうかな。
「それもいいですね」
心の中だけで思ったはずだったが、ロフェナが頷いて同意する。
もちろんこのターランド領を出たというだけでそんなことができるはずもないが、エレノアを抱き上げたまま連れ去ったとしたら、ラウドの呟きは現実になったに違いない。
その際には護衛する者だけでなく、後継者のリグレも、彼の専属執事となるロフェナも剣を握り自身の魔力で行える最大の攻撃を携えて随従するだろう。
いわばターランド伯爵家に在る者をすべて敵に回すということだ。
その報告には続きがあり、ペンティモン伯爵が数年前、サウラス男爵領村に滞在したという一文に、ロフェナの表情が固くなる。
一瞬言葉を詰まらせた若い執事見習いに視線をやったが、ラウドが促す前に気持ちを立て直すと、ロフェナは言葉を続けた。
「どうやらペンティモン伯爵がサウラス男爵令息ロアン氏に、彼の妻を夜伽に差し出せと言ったと……」
「何だと?」
「……それは『契約』に反すると令息が反論し、違約金が発生するということで夫人に手を出すことは諦めたそうです」
「ふむ……契約……何やらきな臭いな……」
サウラス男爵領村は王都からさほど離れておらず、特筆すべき観光場所や産業、特産品もあるわけではない。
強いて言えば村から少し離れた場所に、良い狩場となっている森と湖があるくらいか。
そんな見るべきところもない村へペンティモン伯爵が訪れたのはアーウェンが一歳になった頃だったようで、結婚したての男爵令息は十八歳の青年。
同い年だという妻は当然──
「十八の、婚姻したばかりの女性……」
「はい。キャステ騎士爵家所縁の男爵令嬢だったということですが。しかし男爵令息が持ち出した『契約』というのは、貴族夫妻がサウラス男爵領村に滞在中する際のもてなしをサウラス男爵か、その代理の者が行うというものだったそうです」
「もてなし?」
「はい……その、いわゆる……主には夫人を接待する…という……」
優秀な執事になるべく仕込まれているとはいえ、そこはラウドの専任執事である父親のバラット・エイブ・トゥ・ダレニアと違ってまだ人生経験が浅く、『接待』の意味を正しく捉えて顔を赤らめた。
貴族だろうと平民だろうと何らかの代償に娘が犠牲になるというのはあり得ない話ではなく、デビュタントを待たずに親の借金と引き換えに嫁がされ、尊厳もなく純潔が散らされたのである。
そして成人になった途端に子供を立て続けに三人も産まされ、ようやく夫に見向きされなくなった年齢に達した今、淡い気持ちを踏み潰された日々を今さらながら取り戻しているのだという夫人の告白が報告書にもあった。
「……何とも痛ましいことだ……しかし……」
ペンティモン自身は潰そうかな。
「それもいいですね」
心の中だけで思ったはずだったが、ロフェナが頷いて同意する。
もちろんこのターランド領を出たというだけでそんなことができるはずもないが、エレノアを抱き上げたまま連れ去ったとしたら、ラウドの呟きは現実になったに違いない。
その際には護衛する者だけでなく、後継者のリグレも、彼の専属執事となるロフェナも剣を握り自身の魔力で行える最大の攻撃を携えて随従するだろう。
いわばターランド伯爵家に在る者をすべて敵に回すということだ。
その報告には続きがあり、ペンティモン伯爵が数年前、サウラス男爵領村に滞在したという一文に、ロフェナの表情が固くなる。
一瞬言葉を詰まらせた若い執事見習いに視線をやったが、ラウドが促す前に気持ちを立て直すと、ロフェナは言葉を続けた。
「どうやらペンティモン伯爵がサウラス男爵令息ロアン氏に、彼の妻を夜伽に差し出せと言ったと……」
「何だと?」
「……それは『契約』に反すると令息が反論し、違約金が発生するということで夫人に手を出すことは諦めたそうです」
「ふむ……契約……何やらきな臭いな……」
サウラス男爵領村は王都からさほど離れておらず、特筆すべき観光場所や産業、特産品もあるわけではない。
強いて言えば村から少し離れた場所に、良い狩場となっている森と湖があるくらいか。
そんな見るべきところもない村へペンティモン伯爵が訪れたのはアーウェンが一歳になった頃だったようで、結婚したての男爵令息は十八歳の青年。
同い年だという妻は当然──
「十八の、婚姻したばかりの女性……」
「はい。キャステ騎士爵家所縁の男爵令嬢だったということですが。しかし男爵令息が持ち出した『契約』というのは、貴族夫妻がサウラス男爵領村に滞在中する際のもてなしをサウラス男爵か、その代理の者が行うというものだったそうです」
「もてなし?」
「はい……その、いわゆる……主には夫人を接待する…という……」
優秀な執事になるべく仕込まれているとはいえ、そこはラウドの専任執事である父親のバラット・エイブ・トゥ・ダレニアと違ってまだ人生経験が浅く、『接待』の意味を正しく捉えて顔を赤らめた。
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