369 / 409
第二章 アーウェン少年期 領地編
少年は義兄妹と顔を合わせる ①
しおりを挟む
黒と金──正確には、漆黒と白みがかった金。
そのそばにある灰白。
その組み合わせは、もはやターランド領都では見慣れた光景である。
「おにいさま!はやくはやく!」
「ノア……だいじょうぶ、だよ?そんなにいそがなくても……」
「だって!りぐれにいさまったら、『ちこくしたらいれてやらない』っていうんですもの!のあはりぐれにいさまのおはなしするの、ききたいのよ!」
「エレノア様…先に聴衆する者たちが受付し、その後からアーウェン様とエレノア様が入舎されるのですよ。あまり急がれては、係りの者が困りますから……」
「え~……」
幼児期から少女期に移行する瑞々しさを湛えた領主一家の珠玉であるエレノア・イェーム・デュ・ターランドは、義兄であるアーウェン・ウュルム・デュ・ターランドの手を掴んで弾むように歩き、従者であるカラが窘めるというのもいつものやり取りだ。
彼らが向かっているのは、領都内に住む子供たちが勉強を習っている『学舎』という場所である。
まもなくアーウェンはカラとともにこの領都を離れ、義父であるラウド・ニアス・デュ・ターランドの親友でウェネリドン辺境地を治めるシグム・キースネン・ウェネリドン伯爵のもとで修行と称して少年兵士として赴くのだが、彼の家庭教師を務めるクレファー・チュラン・グラウエスが学長として勤めていた。
アーウェンはこの領都にやってきて二年以上になるが、貴族として基本的な知識は全て修めたため、少しずつその時間が減ったことでクレファーには時間的余裕ができて、こうやって領都内の識字率だけでなく知識率も上げる仕事に移行している。
学舎の横には図書館も併設されており、個人、家族単位で会費を払えば利用できる仕組みになっていた。
今日は一年振りに領都に帰ってきたリグレが王都の貴族学園で修学した計算術を披露し、高等教育の必要性を説くという講義が予定されている。
『高等』という意味を領民のどれだけが理解し必要とするかはわからないが、とにかく『次期領主様がなんかすごい勉強をしてきて、それを教えてくれる』という期待が大きくて、内容はともかく一目リグレを見たいという領都民の申し込みがすごかったのだけは確かだ。
もっとも帰って来てからも父と忙しく領地内の勉強をしている兄にあまり合えないエレノアも同じ気持ちで、カラを護衛としてアーウェンと一緒に行きたいと訴え、一人娘に激甘な両親は領都内であれば安全だと渋りつつも許可してくれたのが今日の外出の理由である。
そのそばにある灰白。
その組み合わせは、もはやターランド領都では見慣れた光景である。
「おにいさま!はやくはやく!」
「ノア……だいじょうぶ、だよ?そんなにいそがなくても……」
「だって!りぐれにいさまったら、『ちこくしたらいれてやらない』っていうんですもの!のあはりぐれにいさまのおはなしするの、ききたいのよ!」
「エレノア様…先に聴衆する者たちが受付し、その後からアーウェン様とエレノア様が入舎されるのですよ。あまり急がれては、係りの者が困りますから……」
「え~……」
幼児期から少女期に移行する瑞々しさを湛えた領主一家の珠玉であるエレノア・イェーム・デュ・ターランドは、義兄であるアーウェン・ウュルム・デュ・ターランドの手を掴んで弾むように歩き、従者であるカラが窘めるというのもいつものやり取りだ。
彼らが向かっているのは、領都内に住む子供たちが勉強を習っている『学舎』という場所である。
まもなくアーウェンはカラとともにこの領都を離れ、義父であるラウド・ニアス・デュ・ターランドの親友でウェネリドン辺境地を治めるシグム・キースネン・ウェネリドン伯爵のもとで修行と称して少年兵士として赴くのだが、彼の家庭教師を務めるクレファー・チュラン・グラウエスが学長として勤めていた。
アーウェンはこの領都にやってきて二年以上になるが、貴族として基本的な知識は全て修めたため、少しずつその時間が減ったことでクレファーには時間的余裕ができて、こうやって領都内の識字率だけでなく知識率も上げる仕事に移行している。
学舎の横には図書館も併設されており、個人、家族単位で会費を払えば利用できる仕組みになっていた。
今日は一年振りに領都に帰ってきたリグレが王都の貴族学園で修学した計算術を披露し、高等教育の必要性を説くという講義が予定されている。
『高等』という意味を領民のどれだけが理解し必要とするかはわからないが、とにかく『次期領主様がなんかすごい勉強をしてきて、それを教えてくれる』という期待が大きくて、内容はともかく一目リグレを見たいという領都民の申し込みがすごかったのだけは確かだ。
もっとも帰って来てからも父と忙しく領地内の勉強をしている兄にあまり合えないエレノアも同じ気持ちで、カラを護衛としてアーウェンと一緒に行きたいと訴え、一人娘に激甘な両親は領都内であれば安全だと渋りつつも許可してくれたのが今日の外出の理由である。
7
お気に入りに追加
783
あなたにおすすめの小説
【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。
まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」
そう、第二王子に言われました。
そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…!
でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!?
☆★☆★
全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。
読んでいただけると嬉しいです。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる