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第二章 アーウェン少年期 領地編

少年は義兄妹と顔を合わせる ①

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黒と金──正確には、漆黒と白みがかった金。
そのそばにある灰白。
その組み合わせは、もはやターランド領都では見慣れた光景である。
「おにいさま!はやくはやく!」
「ノア……だいじょうぶ、だよ?そんなにいそがなくても……」
「だって!りぐれにいさまったら、『ちこくしたらいれてやらない』っていうんですもの!のあはりぐれにいさまのおはなしするの、ききたいのよ!」
「エレノア様…先に聴衆する者たちが受付し、その後からアーウェン様とエレノア様が入舎されるのですよ。あまり急がれては、係りの者が困りますから……」
「え~……」
幼児期から少女期に移行する瑞々しさを湛えた領主一家の珠玉であるエレノア・イェーム・デュ・ターランドは、義兄であるアーウェン・ウュルム・デュ・ターランドの手を掴んで弾むように歩き、従者であるカラが窘めるというのもいつものやり取りだ。
彼らが向かっているのは、領都内に住む子供たちが勉強を習っている『学舎』という場所である。
まもなくアーウェンはカラとともにこの領都を離れ、義父であるラウド・ニアス・デュ・ターランドの親友でウェネリドン辺境地を治めるシグム・キースネン・ウェネリドン伯爵のもとで修行と称して少年兵士として赴くのだが、彼の家庭教師を務めるクレファー・チュラン・グラウエスが学長として勤めていた。
アーウェンはこの領都にやってきて二年以上になるが、貴族として基本的な知識は全て修めたため、少しずつその時間が減ったことでクレファーには時間的余裕ができて、こうやって領都内の識字率だけでなく知識率も上げる仕事に移行している。
学舎の横には図書館も併設されており、個人、家族単位で会費を払えば利用できる仕組みになっていた。

今日は一年振りに領都に帰ってきたリグレが王都の貴族学園で修学した計算術を披露し、高等教育の必要性を説くという講義が予定されている。
『高等』という意味を領民のどれだけが理解し必要とするかはわからないが、とにかく『次期領主様がなんかすごい勉強をしてきて、それを教えてくれる』という期待が大きくて、内容はともかく一目リグレを見たいという領都民の申し込みがすごかったのだけは確かだ。
もっとも帰って来てからも父と忙しく領地内の勉強をしている兄にあまり合えないエレノアも同じ気持ちで、カラを護衛としてアーウェンと一緒に行きたいと訴え、一人娘に激甘な両親は領都内であれば安全だと渋りつつも許可してくれたのが今日の外出の理由である。


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