347 / 416
第二章 アーウェン少年期 領地編
少年は疑いの目で見られる ①
しおりを挟む
日も暮れて蝋燭やオイルランプだけが光源のこの小屋を背にすると、星空がよく見えた。
図書室にある投影できる図鑑で室内に現れる星を見てアーウェンもエレノアも満足していたが、あれでは表現しきれない無数の星々に魅了され、一所懸命に目を凝らす。
もしここに家庭教師のクレファーがいたならば、本に書かれていた『星座』という星の並びがどれかということを教えてくれたかもしれない。
しかし今はそんな学問的なことは考えることなく、子供たちはただただ目に映しきれない星々を見るのに忙しくしている。
それは幼いふたりだけでなく、リグレももちろんそうで──何せ貴族学園の寮では消灯時間が決まっていて、羽目を外して規則破りの夜更かしをするほど、彼はまだ擦れてはいなかった。
いずれリグレがターランド伯爵家直属の兵を率いる大隊長の地位になるのだから、その前には一兵士と同じように隠密行動の訓練も行うはずで、その際には今見ているような星空や月の明かり、そしてその位置から様々に情報を取り出すための行動をしなければならない。
だから今は──
そうして夜が更け、魔力で光源を得る魔灯を持つ者を先頭に、本邸へ一行が戻ったのはかなり遅い時間だった。
先頭は護衛の者だったが、子供たちはそれぞれ大人の腕の中で眠りの中にいる。
エレノアは女性の護衛役の者が、リグレはラウドが、そしてアーウェンは本邸から迎えに来たギンダーに抱きかかえられていた。
最初は何故かリグレを受けとろうとそちらに腕を伸ばしてきたが、ラウドは頑として譲らず、代わりに義息子を運ぶようにと言いつけると、家令代理のギンダーは一瞬顔を顰めた。
しかしすぐに表情を穏やかなものに変えたため、ラウドはそのことは心に留めただけで今は問題にしないことにした。
確かに王都邸の者たちはすぐにアーウェンを受け入れたが、それが普通のことだとは思わない。
本来ならばもう少しその素性や性格に疑いや不信感を持ち、時間をかけてゆっくりと打ち解けていくものだろう──ある意味、ギンダーの用心深さこそが普通であり、上級使用人としても間違った感性だとは思えなかった。
図書室にある投影できる図鑑で室内に現れる星を見てアーウェンもエレノアも満足していたが、あれでは表現しきれない無数の星々に魅了され、一所懸命に目を凝らす。
もしここに家庭教師のクレファーがいたならば、本に書かれていた『星座』という星の並びがどれかということを教えてくれたかもしれない。
しかし今はそんな学問的なことは考えることなく、子供たちはただただ目に映しきれない星々を見るのに忙しくしている。
それは幼いふたりだけでなく、リグレももちろんそうで──何せ貴族学園の寮では消灯時間が決まっていて、羽目を外して規則破りの夜更かしをするほど、彼はまだ擦れてはいなかった。
いずれリグレがターランド伯爵家直属の兵を率いる大隊長の地位になるのだから、その前には一兵士と同じように隠密行動の訓練も行うはずで、その際には今見ているような星空や月の明かり、そしてその位置から様々に情報を取り出すための行動をしなければならない。
だから今は──
そうして夜が更け、魔力で光源を得る魔灯を持つ者を先頭に、本邸へ一行が戻ったのはかなり遅い時間だった。
先頭は護衛の者だったが、子供たちはそれぞれ大人の腕の中で眠りの中にいる。
エレノアは女性の護衛役の者が、リグレはラウドが、そしてアーウェンは本邸から迎えに来たギンダーに抱きかかえられていた。
最初は何故かリグレを受けとろうとそちらに腕を伸ばしてきたが、ラウドは頑として譲らず、代わりに義息子を運ぶようにと言いつけると、家令代理のギンダーは一瞬顔を顰めた。
しかしすぐに表情を穏やかなものに変えたため、ラウドはそのことは心に留めただけで今は問題にしないことにした。
確かに王都邸の者たちはすぐにアーウェンを受け入れたが、それが普通のことだとは思わない。
本来ならばもう少しその素性や性格に疑いや不信感を持ち、時間をかけてゆっくりと打ち解けていくものだろう──ある意味、ギンダーの用心深さこそが普通であり、上級使用人としても間違った感性だとは思えなかった。
17
お気に入りに追加
784
あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?
今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。
しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。
が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。
レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。
レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。
※3/6~ プチ改稿中
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる