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第二章 アーウェン少年期 領地編
少年は『甘い夕食』に驚く ②
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義父の言う『特別な夕食』に、アーウェンは目を瞠った。
テーブルには丸や四角、大きいのや小さいのなど、様々な形と模様のパイが並んでいる。
先ほどアーウェンが水洗いを手伝ったリンゴが入っているらしいが、こんなにたくさんの形が違うものになるとは思っていなかった。
「……あれ?」
黒くて丸い果物が乗っている小さめの四角いパイを見て、アーウェンがパチリと瞬きをする。
さっきのリンゴよりもずっと小さいそれが何なのか、まるで分らない。
「これは夏に採れる黒サクランボですな。リンゴのパイはあの大きい丸いの、四角いのはナッツパイですな。それから……」
「ああっ!それ以上はダメだよ!お楽しみなんだから!」
「らめーよー」
リグレが慌てて両手を振って、アーウェンを抱っこして椅子に座らせたウェブランの言葉を止める。
それを見たエレノアも面白がって真似をし、ラウドとヴィーシャムが顔を合わせてクスッと笑った。
「おやおや……では、儂はこれで……」
「何を言う!今日の功労者のひとりではないか。せっかくだから、一緒に食べて行きなさい」
「は…はぁ……」
さすがに同じテーブルではなく、他の使用人たちが着く方にもうひとつ椅子が用意され、ウェブランがおずおずと座る。
「では……」
ラウドが食前に糧を得る感謝の祈りを捧げ、皆がそれに習う──最初はいったい何が始まったのかと驚いたアーウェンも、今では同じく目を閉じ両手を組む姿勢を取り、義父の言葉が締めくくられるのを待った。
「目を開けてごらん」
いつもと違う締めくくりの言葉にゆっくりと目を開けると、アーウェンだけでなく、リグレやエレノアの目の前に黄色いクリームがこんもりと盛られた皿が置いてあった。
「きゃぁ~!」
「ち、父上……こ、これって……」
「母に感謝するがいい。アーウェンとエレノアがかき混ぜてくれた卵と牛乳、そして砂糖を入れた物を凍らせたものだそうだ。『アイスクリーム』というらしいな……王都で最近流行り始めたと聞いたが、これで間違いはないかな?リグレ」
「えっ……ええ……とても作るのに手間が掛かるのと、とにかく氷が大量にいるので、氷魔法が使えても択山は作れないとか……学園で成績優秀者が発表されるのですが、学園長や国王陛下と共に『賞賛の宴』に着く時に、ほんの少しだけ出されました。今までの宴では別のデザートが出されたのですけど、何でも王女殿下がご希望されて、すごくお気に召したとか」
「うむ……しかもどれも新鮮な物を使う必要があるらしいな。王都では近隣の領から納められる農作品や畜産品が流通しているが、王都内で食べられる物は、王宮敷地内で生産される物が使われていると聞いたな」
「すごいですね……さすが母上です」
「うむ。そしてこれらをこの我が領邸敷地内の牧場で、鶏や牛から採れるまで育てた小作人たちにも感謝しなさい」
「はい」
「あい!」
リグレは父の言うことが理解できたためにしっかり返事をしたが、エレノアはつられて一緒に声を上げる。
だが、アーウェンは目の前に置かれた物に気を取られ過ぎて、返事をすることすら忘れてしまった。
だって──それは固まっているはずなのに、トロリと溶けだしているのだ。
「ハハハ…いい返事だ。さすがに長く話していると溶けてしまうな。確かにこれは大量の氷と共に室温もかなり下げて調理せねばならぬため、とても溶けやすい上にいつでも作れるというものではない。今日は皆を労わるため、ヴィーシャムに力を貸してもらった。ぜひすべて溶け切ってしまう前に食してほしい」
そう──それはテーブルに着くすべての物の前に一皿ずつ置いてある。
そしてラウドの言葉が終わった瞬間に、皆のスプーンが動いて冷たさと甘さを甘受した。
アイスクリームは冷たかったが、パイは温かかった。
アップルパイとアイスクリームはもちろんのこと、黒サクランボのパイとも、柑橘の汁を混ぜたチーズが中に入っていたパイともよく合う。
だがそんなに試す前に、綺麗に氷菓は無くなってしまい──代わりに擂り潰した果実を凍らせた物が出てきて、それもまた皆を喜ばせる。
そしてパイは甘いだけでなく、粗みじん切りにした肉と野菜を混ぜてスパイスで味付けした物もあり、お腹が満たされない者など誰ひとりとしていなかった。
テーブルには丸や四角、大きいのや小さいのなど、様々な形と模様のパイが並んでいる。
先ほどアーウェンが水洗いを手伝ったリンゴが入っているらしいが、こんなにたくさんの形が違うものになるとは思っていなかった。
「……あれ?」
黒くて丸い果物が乗っている小さめの四角いパイを見て、アーウェンがパチリと瞬きをする。
さっきのリンゴよりもずっと小さいそれが何なのか、まるで分らない。
「これは夏に採れる黒サクランボですな。リンゴのパイはあの大きい丸いの、四角いのはナッツパイですな。それから……」
「ああっ!それ以上はダメだよ!お楽しみなんだから!」
「らめーよー」
リグレが慌てて両手を振って、アーウェンを抱っこして椅子に座らせたウェブランの言葉を止める。
それを見たエレノアも面白がって真似をし、ラウドとヴィーシャムが顔を合わせてクスッと笑った。
「おやおや……では、儂はこれで……」
「何を言う!今日の功労者のひとりではないか。せっかくだから、一緒に食べて行きなさい」
「は…はぁ……」
さすがに同じテーブルではなく、他の使用人たちが着く方にもうひとつ椅子が用意され、ウェブランがおずおずと座る。
「では……」
ラウドが食前に糧を得る感謝の祈りを捧げ、皆がそれに習う──最初はいったい何が始まったのかと驚いたアーウェンも、今では同じく目を閉じ両手を組む姿勢を取り、義父の言葉が締めくくられるのを待った。
「目を開けてごらん」
いつもと違う締めくくりの言葉にゆっくりと目を開けると、アーウェンだけでなく、リグレやエレノアの目の前に黄色いクリームがこんもりと盛られた皿が置いてあった。
「きゃぁ~!」
「ち、父上……こ、これって……」
「母に感謝するがいい。アーウェンとエレノアがかき混ぜてくれた卵と牛乳、そして砂糖を入れた物を凍らせたものだそうだ。『アイスクリーム』というらしいな……王都で最近流行り始めたと聞いたが、これで間違いはないかな?リグレ」
「えっ……ええ……とても作るのに手間が掛かるのと、とにかく氷が大量にいるので、氷魔法が使えても択山は作れないとか……学園で成績優秀者が発表されるのですが、学園長や国王陛下と共に『賞賛の宴』に着く時に、ほんの少しだけ出されました。今までの宴では別のデザートが出されたのですけど、何でも王女殿下がご希望されて、すごくお気に召したとか」
「うむ……しかもどれも新鮮な物を使う必要があるらしいな。王都では近隣の領から納められる農作品や畜産品が流通しているが、王都内で食べられる物は、王宮敷地内で生産される物が使われていると聞いたな」
「すごいですね……さすが母上です」
「うむ。そしてこれらをこの我が領邸敷地内の牧場で、鶏や牛から採れるまで育てた小作人たちにも感謝しなさい」
「はい」
「あい!」
リグレは父の言うことが理解できたためにしっかり返事をしたが、エレノアはつられて一緒に声を上げる。
だが、アーウェンは目の前に置かれた物に気を取られ過ぎて、返事をすることすら忘れてしまった。
だって──それは固まっているはずなのに、トロリと溶けだしているのだ。
「ハハハ…いい返事だ。さすがに長く話していると溶けてしまうな。確かにこれは大量の氷と共に室温もかなり下げて調理せねばならぬため、とても溶けやすい上にいつでも作れるというものではない。今日は皆を労わるため、ヴィーシャムに力を貸してもらった。ぜひすべて溶け切ってしまう前に食してほしい」
そう──それはテーブルに着くすべての物の前に一皿ずつ置いてある。
そしてラウドの言葉が終わった瞬間に、皆のスプーンが動いて冷たさと甘さを甘受した。
アイスクリームは冷たかったが、パイは温かかった。
アップルパイとアイスクリームはもちろんのこと、黒サクランボのパイとも、柑橘の汁を混ぜたチーズが中に入っていたパイともよく合う。
だがそんなに試す前に、綺麗に氷菓は無くなってしまい──代わりに擂り潰した果実を凍らせた物が出てきて、それもまた皆を喜ばせる。
そしてパイは甘いだけでなく、粗みじん切りにした肉と野菜を混ぜてスパイスで味付けした物もあり、お腹が満たされない者など誰ひとりとしていなかった。
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