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第二章 アーウェン少年期 領地編
少年は義兄と再会する
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少年の成長は早い。
アーウェンのことではなく──長期休暇で王都ではなく領都の邸に、少し大人びた顔つきになった嫡男のリグレが戻ってきた。
「りーにーしゃま!」
「ノア!少し見ない間に、ずいぶんおしゃべりが上手になったね!」
「あい!」
ニコニコと笑いながら幼い妹を抱きとめ、リグレは視線を合わせる。
さて、と頭を巡らせて、もうひとりを抱き締めようと手を伸ばしたが、それはなかなか埋まらない。
「どうしたの?おいで、アーウェン」
「あ…あの……」
キョロキョロと落ち着かなげにアーウェンは視線を動かし、縋っているカラを見上げ、義父の顔を見、自分のそばではなくリグレの後ろに控えているロフェナに困ったような表情を向け、またどうしたらいいのかと泣きそうな顔で順番に知っている顔を見る。
「アーウェンもターランド家の息子だ。当然リグレを兄と呼んでいい。そして、エレノアと同じように抱き着いていい……行っておいで」
トンとラウドに軽く背中を押され、一歩二歩とたたらを踏む。
それを受けとめるようにカラも少しだけ移動し、ゆっくりと一緒に歩き出した。
「カ、カラ………」
「大丈夫です。エレノア様も嬉しそうですから」
「のあ……」
兄が片手を差し出しているのを見て、エレノアも小さな手を目いっぱい開き、腕を伸ばしてアーウェンを待つ。
躊躇いつつふたりのそばに寄ると、ほんのわずかにリグレの身体が動いて思わずビクッと身体が竦んだが、気がつけば細いけれど優しく温かく、そして力強い腕に抱かれていた。
「すごいな、アーウェン。最初に見たときよりずっと健康そうだ。ね、お父様、アーウェンの背も少し伸びましたよね?」
「ああ。お前も少し身長が伸びたようだが、きっとアーウェンもすぐに追いつく」
「それは……兄として負けられませんね!」
「のあも!」
アーウェンの身体を抱くというよりも、その小さな手をぺちぺちとアーウェンの腰のあたりに当てていたエレノアがグイッと仰け反って、自分も大きくなるのだと宣言する。
柔らかい身体がリグレの腕から零れ落ちそうに仰け反り、リグレは慌てて抱き直そうとしたが、ついでにアーウェンも巻き込んで倒れかけた。
「う…うわわわわっ!ノア!エレノア!あぶなっ……」
「うひゃぁぁ~……」
「アーウェン様っ!」
ベしゃっと子供たちが団子のように床に倒れ込んだが、そこにはカラが身を挺して倒れ込み、怪我をすることはなかった。
アーウェンのことではなく──長期休暇で王都ではなく領都の邸に、少し大人びた顔つきになった嫡男のリグレが戻ってきた。
「りーにーしゃま!」
「ノア!少し見ない間に、ずいぶんおしゃべりが上手になったね!」
「あい!」
ニコニコと笑いながら幼い妹を抱きとめ、リグレは視線を合わせる。
さて、と頭を巡らせて、もうひとりを抱き締めようと手を伸ばしたが、それはなかなか埋まらない。
「どうしたの?おいで、アーウェン」
「あ…あの……」
キョロキョロと落ち着かなげにアーウェンは視線を動かし、縋っているカラを見上げ、義父の顔を見、自分のそばではなくリグレの後ろに控えているロフェナに困ったような表情を向け、またどうしたらいいのかと泣きそうな顔で順番に知っている顔を見る。
「アーウェンもターランド家の息子だ。当然リグレを兄と呼んでいい。そして、エレノアと同じように抱き着いていい……行っておいで」
トンとラウドに軽く背中を押され、一歩二歩とたたらを踏む。
それを受けとめるようにカラも少しだけ移動し、ゆっくりと一緒に歩き出した。
「カ、カラ………」
「大丈夫です。エレノア様も嬉しそうですから」
「のあ……」
兄が片手を差し出しているのを見て、エレノアも小さな手を目いっぱい開き、腕を伸ばしてアーウェンを待つ。
躊躇いつつふたりのそばに寄ると、ほんのわずかにリグレの身体が動いて思わずビクッと身体が竦んだが、気がつけば細いけれど優しく温かく、そして力強い腕に抱かれていた。
「すごいな、アーウェン。最初に見たときよりずっと健康そうだ。ね、お父様、アーウェンの背も少し伸びましたよね?」
「ああ。お前も少し身長が伸びたようだが、きっとアーウェンもすぐに追いつく」
「それは……兄として負けられませんね!」
「のあも!」
アーウェンの身体を抱くというよりも、その小さな手をぺちぺちとアーウェンの腰のあたりに当てていたエレノアがグイッと仰け反って、自分も大きくなるのだと宣言する。
柔らかい身体がリグレの腕から零れ落ちそうに仰け反り、リグレは慌てて抱き直そうとしたが、ついでにアーウェンも巻き込んで倒れかけた。
「う…うわわわわっ!ノア!エレノア!あぶなっ……」
「うひゃぁぁ~……」
「アーウェン様っ!」
ベしゃっと子供たちが団子のように床に倒れ込んだが、そこにはカラが身を挺して倒れ込み、怪我をすることはなかった。
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