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第二章 アーウェン少年期 領地編

少年は『自分の部屋』に驚く ③

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『早い時間』と言ったのは間違いなく、普通の八歳の男の子が食べるよりもずっと少ない量のおかゆを食べ終わったアーウェンは一階のテラスから朝靄の匂いが残る庭に出て、朝露で足を濡らしながら、掛け声の聞こえる方にカラと一緒に歩いていく。
振り返れば壁が見え、首を上げても視界に収まりきらないほどの大きな建物があった。
「お城みたい………」
「ええ、まさしく『城』なんですよ」
アーウェンの感想に、カラがクスッと笑って肯定する。
もっともアーウェン自身は王都でも本物の城を見たことなどなく、そういう物があるというのを知ったのは、エレノアが一緒に見ようと持ってきた本に載っていた鮮やかな絵だった。
しかもそれは一般に流通している本ではなく、ターランド伯爵家の歴史を子供に学ばせるための物だったため、まさしくモデルはこの城だったのである。
「とても広くて、一日では全部見て回れないぐらいらしいですよ。後で家令代理のギンダーという者が案内してくれるというので、一緒に見て回ろうと旦那様がおっしゃっていましたよ」
「おとうさまが?」
「エレノアお嬢様もこちらにはほとんどいらっしゃってなくて、ちゃんと歩きだしたのも王都のお屋敷にいた頃らしいですから、ふたりご一緒にと」
「のあと……いっしょに……おかあさまは?」
「奥様はご領地にお戻りになったことをお友達にお知らせするために、数日後に開くお茶会の準備をされるそうです」
「そうなんだ……」
「おっ!アーウェン様!お早いですねぇ!」
義母がお城ツアーに参加しないことを残念に思いながら歩いていると、まだそんなに近付いてもいないのに、訓練場から声が上がった。
聞いたことのある声に顔を向ければ、大きく手を振る人影が見える。
それはアーウェンが目を覚ますより早く起きて行動を始めていたギリー大副隊長代理だが、今日も朝からとてつもなく元気だ。
それは彼だけでなく、アーウェンとカラが近付くにつれて見えてきた兵たちも同じで、暑さとはまったく無縁のこの時間帯にも関わらず、風邪の心配もバカバカしくなるぐらい身体から湯気を上げて汗を流しながら訓練をしていたらしい。
「今日の訓練には参加されないと聞いていましたが、どうされましたか?朝の走り込みをしないと落ち着かなくなりましたか?いやぁ!いい兵となられますよ、アーウェン様は!」
ガッハッハッ!と大笑いしてギリーはムンッと筋肉を膨らませてみせる。
一体何を言われているのかとアーウェンはキョトンとしたが、カラが少し呆れたような目でそれぞれポーズを取ってみせる兵たちを眺めた。
「……ギリー大副隊長代理の仰るとおり、今日は運動を控えるようにと旦那様からはアーウェン様に伝えるようにと。まだ皆様がご起床されていないので、まずはこの訓練場をお見せしようかと思いまして」
「ああ!城は大隊長がご自身でご案内されるとか!それに先立ち、訓練場に来ていただけるとは光栄ですな!では明日以降、また一緒に訓練いたしましょう、アーウェン様」
片腕を後ろに回しグッと前に屈んだギリーは、大きな手をアーウェンに向かって差し出す。
その動作が一体何を意味するのかとアーウェンはその大きな手とカラを見比べたが、促されて自分の手をその上に乗せた。
それはそっと優しく握られ、軽くひと振りされてから離れていった。


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