320 / 412
第二章 アーウェン少年期 領地編
少年は義家族に褒められる ②
しおりを挟む
しかしアーウェンの感じた恐怖はただの杞憂にしかすぎず、むしろ義両親も義妹も眩しい物を見るかのように、新しい家族の新しい姿を好ましく迎えてくれたのである。
アーウェンが普通に育てられていれば、義家族の皆だけでなく、食堂に控えている使用人たちも笑みを浮かべつつ目には労し気な色を浮かべているのに気がついたかもしれない。
だが『誰もアーウェンが髪を整えてもらった』ということを咎めなかった事実に安心してしまって、またジワリと涙を浮かべていた。
「アーウェン様、少しお顔に汚れがあるようです……はい、よろしいですよ。どうぞ」
カラが丁寧な手つきでアーウェンの目元を軽く拭い、その手を引いてラウドが示した椅子に座らせる。
アーウェンの左手には義父がおり、向かいには義母と義妹が──その動きが流れるように優雅で、ラウドとヴィーシャムの後ろに控えていたロフェナがふっと笑った。
その姿勢は完璧というわけではないが付け焼刃というほどの簡単なものでなく、ここまでくる間に習得したにしてはなかなかのものである。
そのカラの仕込みはロフェナが直々に教えた──それはターランド伯爵家の家令でありラウドの専属執事も兼ねた父直伝。
「ふむ……さすが、フェンティスはなかなか男前に仕上げてくれる。もっと早く会わせて整えてもらうべきだったな」
「そうですわね。では近いうちに本邸に呼び寄せねば」
「ああ、いや…だがなぁ……フェンティスはこの邸と町を離れたがらぬから。いずれこちらにまた来ることもあるだろう」
「ふふ…きっとその時は『誰が整えたのか』と厳しく問い詰められましてよ?」
ラウドがアーウェンの頭を撫でようと手を伸ばすとビクッと首を竦められ、一瞬ラウドは痛ましげな目付きになった。
それはヴィーシャムも同じで、しかしそれを悟られないようにと快活に声を上げる。
両親のやり取りを聞いていないエレノアはまだキラキラと眩しそうに義兄を見つめ、可愛らしく片頬に手を添えてほぉっと溜息をつきながら大人びた口調で呟いた。
「あーにーしゃま…しゅてきねぇ……ねぇ、てぃしゅ、しょうおもわないこと?」
「ふふっ…左様でございますね、エレノアお嬢様」
ロフェナと違いエレノアの食事の手伝いをするために同席しているラリティスが、小さな令嬢の言葉に相槌を打つ。
それは間違いなく、母が開いたお茶会でどこかのご夫人が言っていた台詞の真似だ。
こんな小さな子が大人の真似をするというだけでも可愛らしいのに、うっとりとアーウェンを見つめるエレノアも愛おしく、幼いふたりを見守る目はとても優しかった。
アーウェンが普通に育てられていれば、義家族の皆だけでなく、食堂に控えている使用人たちも笑みを浮かべつつ目には労し気な色を浮かべているのに気がついたかもしれない。
だが『誰もアーウェンが髪を整えてもらった』ということを咎めなかった事実に安心してしまって、またジワリと涙を浮かべていた。
「アーウェン様、少しお顔に汚れがあるようです……はい、よろしいですよ。どうぞ」
カラが丁寧な手つきでアーウェンの目元を軽く拭い、その手を引いてラウドが示した椅子に座らせる。
アーウェンの左手には義父がおり、向かいには義母と義妹が──その動きが流れるように優雅で、ラウドとヴィーシャムの後ろに控えていたロフェナがふっと笑った。
その姿勢は完璧というわけではないが付け焼刃というほどの簡単なものでなく、ここまでくる間に習得したにしてはなかなかのものである。
そのカラの仕込みはロフェナが直々に教えた──それはターランド伯爵家の家令でありラウドの専属執事も兼ねた父直伝。
「ふむ……さすが、フェンティスはなかなか男前に仕上げてくれる。もっと早く会わせて整えてもらうべきだったな」
「そうですわね。では近いうちに本邸に呼び寄せねば」
「ああ、いや…だがなぁ……フェンティスはこの邸と町を離れたがらぬから。いずれこちらにまた来ることもあるだろう」
「ふふ…きっとその時は『誰が整えたのか』と厳しく問い詰められましてよ?」
ラウドがアーウェンの頭を撫でようと手を伸ばすとビクッと首を竦められ、一瞬ラウドは痛ましげな目付きになった。
それはヴィーシャムも同じで、しかしそれを悟られないようにと快活に声を上げる。
両親のやり取りを聞いていないエレノアはまだキラキラと眩しそうに義兄を見つめ、可愛らしく片頬に手を添えてほぉっと溜息をつきながら大人びた口調で呟いた。
「あーにーしゃま…しゅてきねぇ……ねぇ、てぃしゅ、しょうおもわないこと?」
「ふふっ…左様でございますね、エレノアお嬢様」
ロフェナと違いエレノアの食事の手伝いをするために同席しているラリティスが、小さな令嬢の言葉に相槌を打つ。
それは間違いなく、母が開いたお茶会でどこかのご夫人が言っていた台詞の真似だ。
こんな小さな子が大人の真似をするというだけでも可愛らしいのに、うっとりとアーウェンを見つめるエレノアも愛おしく、幼いふたりを見守る目はとても優しかった。
17
お気に入りに追加
782
あなたにおすすめの小説
転移した異世界が無茶苦茶なのは、オレのせいではない!
どら焼き
ファンタジー
ありがとうございます。
おかげさまで、第一部無事終了しました。
これも、皆様が読んでくれたおかげです。
第二部は、ゆっくりな投稿頻度になると思われます。
不遇の生活を送っていた主人公が、ある日学校のクラスごと、異世界に強制召喚されてしまった。
しかもチートスキル無し!
生命維持用・基本・言語スキル無し!
そして、転移場所が地元の住民すら立ち入らないスーパーハードなモンスター地帯!
いきなり吐血から始まる、異世界生活!
何故か物理攻撃が効かない主人公は、生きるためなら何でも投げつけます!
たとえ、それがバナナでも!
ざまぁ要素はありますが、少し複雑です。
作者の初投稿作品です。拙い文章ですが、暖かく見守ってほしいいただけるとうれしいです。よろしくおねがいします。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
過程をすっ飛ばすことにしました
こうやさい
ファンタジー
ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。
どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?
そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。
深く考えないでください。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
なぜか異世界に幼女で転生してしまった私は、優秀な親の子供だったのですが!!
ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
私は中学三年生の普通の女の子だ。
友人や家族に恵まれて幸せに暮らしている。
ただ、最近ライトノベルと呼ばれる本にハマってしまい、勉強が手につかなくなってしまった。
そのことが原因で受験の方に意識が向かなくなり、こちらに集中してしまうようになっていたのだ。
このままではいけないと思いつつも、私は本を読むことをやめることができないでいた。
...、また今度考えよう...、今日はもう寝ることにする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる