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第二章 アーウェン少年期 領地編
少年は身体を鍛える ⑤
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久しぶりに自分の剣を握る。
むろん訓練用のため刃を潰してあるが、当たればそれなりに危ない代物だ。
軽く素振りをしながら訓練前の運動をしている部下たちを見回せば、その中にひと際小さな人影がもう少し大きい少年と並んでおり、その前はともかく後ろをずいぶん引き離して走っている。
「ほう……ずいぶん健康に……いや、あいつらはなんであんなに遅く走っているのだ?怪我をするような訓練でもしたのか?」
王都から領地に至るまでの旅程や出来事、子供たちの成長や、専属の兵や使用人たちの様子を報告されたりターランド伯爵家歴書にまとめる書類仕事に携わっていたため、ラウドは兵たちが独自に決めたアーウェンのためのルールを知らなかった。
そのためターランド伯爵警護兵副大隊長ルベラ・デュガ・ムーケンの代理として警護兵たちをまとめる役を担っているギリーが、自分の部下たちが決して手を抜いて運動しているわけではないことを説明する。
「……つまり、大の男どもが後ろに追いつくと、アーウェンが必死になって走る……というか、逃げようとする、と」
「はい」
「ふむ……」
「あまりにも悲壮な様子だったので私からお話を聞こうとしたのですが、その……怯えられてしまって」
ラウドが上半身を少し捻って見上げるギリーは一歩引いて控えているが、身長的にも体の厚み的にもルベラの次に大きな男だ。
「ですがあの少年が……カラ、と言いましたか?アーウェン様のお付きの者ですが」
「ああ」
「彼がアーウェン様の恐怖の原因を聞きだしてくれまして。幼い頃に『剣術を教える』と言ってくれた…いや、そう偽っていた者たちがサウラス男爵領村の森にアーウェン様を放り込み、木の陰から脅したり、驚いて逃げるアーウェン様を執拗に追いかけ蹴り飛ばしたりしたらしく……」
もちろん今よりもずっと幼かったアーウェンの記憶は曖昧で、『何かに追いかけられた』『突然痛くなって身体が飛んだ』『なんだか大きくて黒いのに掴まれて怖かった』という断片的な言葉だったが、ラウドは実父に荷物の如く持ち運びされて滞在していた兵たちの間に投げ込まれたことや、その村に滞在していた貴族の抱える兵たちが幼子を虐待していたことから簡単に答えを導き出す。
それはもちろんアーウェンを健康な体に成長させるための手伝いをするギリーたちにも事情を知らせているため、カラから教えてもらったその言葉でアーウェンの問題を察したらしい。
「たとえ遊びのつもりでも、アーウェン様にしてみれば悪魔がまた追いかけてきたと思われたり、思い出されたりするのでしょう……気絶するまで走られてしまって……行ってはいけない方向へ行こうとするのを追いかければ同じことの繰り返しです。ですので……」
「なるほど。お前たちの心配りはよくわかった。よく気付き、あの子を守ってくれた」
身体だけでなく、心も。
そう理解して走る者たちを見れば、アーウェンが全速力ではなくギリギリ頑張れるぐらいの速さで走っている。
しかもその遅さを利用して、気配を消して対象を尾行する訓練を行っている者もいるほどだ。
「……何にせよ、少しでも鍛練の意味を見出すのはいいことだな」
思わずクスリと笑いながら、ラウドはぐるりと外周を回っていた義息子が自分の方へ近付いてきたのを見て、軽く手を振って存在を知らせる。
むろん訓練用のため刃を潰してあるが、当たればそれなりに危ない代物だ。
軽く素振りをしながら訓練前の運動をしている部下たちを見回せば、その中にひと際小さな人影がもう少し大きい少年と並んでおり、その前はともかく後ろをずいぶん引き離して走っている。
「ほう……ずいぶん健康に……いや、あいつらはなんであんなに遅く走っているのだ?怪我をするような訓練でもしたのか?」
王都から領地に至るまでの旅程や出来事、子供たちの成長や、専属の兵や使用人たちの様子を報告されたりターランド伯爵家歴書にまとめる書類仕事に携わっていたため、ラウドは兵たちが独自に決めたアーウェンのためのルールを知らなかった。
そのためターランド伯爵警護兵副大隊長ルベラ・デュガ・ムーケンの代理として警護兵たちをまとめる役を担っているギリーが、自分の部下たちが決して手を抜いて運動しているわけではないことを説明する。
「……つまり、大の男どもが後ろに追いつくと、アーウェンが必死になって走る……というか、逃げようとする、と」
「はい」
「ふむ……」
「あまりにも悲壮な様子だったので私からお話を聞こうとしたのですが、その……怯えられてしまって」
ラウドが上半身を少し捻って見上げるギリーは一歩引いて控えているが、身長的にも体の厚み的にもルベラの次に大きな男だ。
「ですがあの少年が……カラ、と言いましたか?アーウェン様のお付きの者ですが」
「ああ」
「彼がアーウェン様の恐怖の原因を聞きだしてくれまして。幼い頃に『剣術を教える』と言ってくれた…いや、そう偽っていた者たちがサウラス男爵領村の森にアーウェン様を放り込み、木の陰から脅したり、驚いて逃げるアーウェン様を執拗に追いかけ蹴り飛ばしたりしたらしく……」
もちろん今よりもずっと幼かったアーウェンの記憶は曖昧で、『何かに追いかけられた』『突然痛くなって身体が飛んだ』『なんだか大きくて黒いのに掴まれて怖かった』という断片的な言葉だったが、ラウドは実父に荷物の如く持ち運びされて滞在していた兵たちの間に投げ込まれたことや、その村に滞在していた貴族の抱える兵たちが幼子を虐待していたことから簡単に答えを導き出す。
それはもちろんアーウェンを健康な体に成長させるための手伝いをするギリーたちにも事情を知らせているため、カラから教えてもらったその言葉でアーウェンの問題を察したらしい。
「たとえ遊びのつもりでも、アーウェン様にしてみれば悪魔がまた追いかけてきたと思われたり、思い出されたりするのでしょう……気絶するまで走られてしまって……行ってはいけない方向へ行こうとするのを追いかければ同じことの繰り返しです。ですので……」
「なるほど。お前たちの心配りはよくわかった。よく気付き、あの子を守ってくれた」
身体だけでなく、心も。
そう理解して走る者たちを見れば、アーウェンが全速力ではなくギリギリ頑張れるぐらいの速さで走っている。
しかもその遅さを利用して、気配を消して対象を尾行する訓練を行っている者もいるほどだ。
「……何にせよ、少しでも鍛練の意味を見出すのはいいことだな」
思わずクスリと笑いながら、ラウドはぐるりと外周を回っていた義息子が自分の方へ近付いてきたのを見て、軽く手を振って存在を知らせる。
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