その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第二章 アーウェン少年期 領地編

伯爵は領都で報告を受ける ①

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ターランド伯爵家の本隊が領都に入る寸前、嫡男であるリグレが王都に残留している執事や警護兵に託した手紙兼報告書が、早馬を何頭か乗り継いで届けられた。
「……癒し手がアーウェンの義姉?」
王都にいる専属執事のバラットに代わって代理専属執事としてロフェナがリグレの手紙を読み上げていたが、それを遮ってラウドが首を傾げた。
その言葉に頷きつつ、ロフェナは目だけでその先をざっと読んでからラウドの疑問への回答を探す。
「そのようですが、正確なことはわからないようです。ただ『死に損なった役立たずが朝になっても死なずに生きていて、兄貴が驚いていた』と言っていたらしく、また発熱したアーウェン様を見捨てれば教会から調査が入ると窘めたために『男に従わない生意気な女』と蔑称もしたようです」
「自分たちの意に沿わぬ者を蔑むか。幼子を養育する責任も果たさず、貴重な癒し手かもしれない女性を罵るなど……つくづく、あの家族から引き離して正解だった」
「はい」
ラウドの言葉に、ロフェナは全面的に賛成だった。
「リグレ坊ちゃまから進言され、王都の者がサウラス男爵家について追加で領治権を与えられている村にも調査の足を延ばしました。結果的には、現在はサウラス男爵家当主が直接ではなく、長男夫婦が領主代理となっていると判明いたしました。妻の名はティーニア。キャステ騎士爵家当主が口添えし、平民であるが村一番の美女ということで、強引にサウラス男爵家の長男に娶せたということです」
「……王都出身の者ではないのか?」
「ええ。長男は基礎教育が終了した十三歳の年に領村にやられ、そこで隠居していたサウラス前男爵に養育されました。そこでどうやら……そ、その……」
別の紙を取り上げ目を走らせていたロフェナが頬を上気させるのを見て、ラウドが息子の手紙ではなく、警護兵が追加で寄こした報告書を渡すようにと目配せをした。


内容としては酷いものだった。
文章が、というわけではなく、土地の活用に関して、である。

サウラス男爵家が何故貴族たちが所有する私兵の訓練のために、サウラス男爵が治める小さな村を提供するのは村民数に比べて森や広い川、人が住むに適さない山があるためであるが、広い緑地を牧場や畑にするのではなく、貴族たちの別荘地として貸し出しているらしい。

それならばまだいい。

王都での社交疲れから離れたり、自分たちの私兵がどのくらい訓練されているかを視察するなど使い道はあるかもしれないが、主な使い道は『密会用』らしい。
王族以外が複数の妻を持つことが禁止されているウェルエスト王国貴族たちであるが、婚外恋愛を愉しむ者は多かった。
王都内でのスリリングな逢引きではなく、ちょっとした旅行気分で別荘扱いの田舎家で存分に愛し合う──相手がいれば。
だが中には女性の方が羽根を伸ばすべくやってきて滞在し、その間の『接待役』として別荘に上がり込む権利を持つのがサウラス男爵やその長男らしい。
長男の顔は知らないが、サウラス男爵の見目は良いほうだ──鍛錬された男とは真逆の意味で。
「……流浪の吟遊詩人を連れ込むよりは、噂になりにくいということか……」
その地の領主が直々にご機嫌伺いに行くのだ。
だいたいその別荘を維持できる貴族といえば伯爵以上であろうし、逆に何かあっても男爵家から訴え出ることは不可能に近い。
どうやって調べたのかさる貴婦人はどうも自分の夫から贈られた首飾りを報酬に、滞在期間いっぱいサウラス男爵家長男のロアンを自分の『執事』としてそばに置いていたらしいが、それはロアンが十六歳の頃でティーニアと婚約を締結して一年経った頃だったという。
「……自分の息子を男妾の如く差し出したのか?サウラスは」
「そ、そのよう…です。しかもその首飾りをバラバラにし、その中のひと粒の宝石を婚約者に与えて結納代わりにしたとか……」
しかもその出所を婚約者に自慢したとロフェナは言い、ラウドもそのひと文を目にして眉を顰める。


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