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第二章 アーウェン少年期 領地編
義兄は王都で推測する ③
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引き出せたのは結局、アーウェンを蔑む言葉とサウラス男爵家四男に対する賞賛の言葉だけだった。
とにかく、異常なぐらい。
しかも父であるラウド・ニアス・デュ・ターランドがアーウェンを迎えるためにサウラス男爵に差し出したのは、そんなに小さな額ではない。
だいたい血縁とはいえほとんど交流がない、ほぼ他人だった貴族家の令息を養子に迎えるという話なのだから、相手方だけでなく、貴族籍を管理する教会の他にも、王家に対してもそれなりの寄付を金品で贖っているはずだ。
そして本来であれば子供を譲り渡す男爵家も貴族籍を変更する手続きとして、多少なりとも寄付を行うはずなのだが──リグレが調べた限りでは、そのような『貴族らしい』ことを行ったという記録はない。
「……いや、しかし…父上が、まさか男爵家の分まで負担を……?いったい……」
『アーウェン』という少年は、何なのか。
父から届いた『手紙』には、アーウェンや食事の時に臨時に給仕として付いていた少年がかかっていた何かの『呪い』からは王都を離れてから解放されたこと、そして年相応の成長の兆しが見え始めたことなどが、幾枚にもわたって綴られていたが、そのどれにもアーウェンの元の家族のことなど一切書かれていない。
何だかまるで最初から、アーウェンには家族などなかったかのようである。
アーウェンをまるで屑か何かのように語るサウラス家の兄弟を思えば、父がアーウェンから何を聞いていようとそれを記すことはないのかもしれないが、それにしては不自然なほど、サウラス男爵家にいた頃の話が紙面に上がってこない。
気持ち悪い。
『目障りなモノがいなくなって、清々した』と嬉しそうに話す元の家族たち。
何故彼らは、年端もいかないとわざわざ表現するもバカバカしいほどの幼すぎる弟を放置し、酷使し、しかもそのことに罪悪感を抱きもしないのか。
本当に誰も、何も感じていないのか。
「……領主夫人」
ふっと話の中に出てきた、ひとりの女性のこと。
現男爵の妻ではなく、長男の妻。
名前は何と言ったか──彼女は王都出身ではなく、サウラス男爵が治める領村に近い別の村に住んでいた豪農の娘らしいが、かなりの美貌の持ち主で、そこを長男は見初めたらしい。
だが母のように夫に従順すぎるほどの性格ではなく、まるで荷物のように扱われて領村に連れられてきたアーウェンを気にかけ、さらに村に滞在していた兵士たちに半死の目に合わされたアーウェンの怪我を癒したと、まるで彼女が大罪を犯したかのようにミージャスは顔を歪めた。
『あの女……兄さんに従わない……生意気な……』
まるで呪詛のような呟きを吐いた後、ミージャスは突然正気を取り戻したようにシャキンと姿勢を正し、先ほどまでの酔っぱらったような態度を取っていたことを忘れたかのように、まさしく商人のような丁寧な口調に戻り、「怠けていられないから」と時間を言い訳にリグレに別れを告げた。
ちなみにその時ふたりがいたのは年若い貴族令息たちが自分の身の丈に合った食事処として利用する料理屋であったが、ミージャスは自分より年下の伯爵令息が支払いを持つという言葉に、にんまりと嫌な笑いを浮かべながら遠慮なく飲み食い散らかしたのだった。
とにかく、異常なぐらい。
しかも父であるラウド・ニアス・デュ・ターランドがアーウェンを迎えるためにサウラス男爵に差し出したのは、そんなに小さな額ではない。
だいたい血縁とはいえほとんど交流がない、ほぼ他人だった貴族家の令息を養子に迎えるという話なのだから、相手方だけでなく、貴族籍を管理する教会の他にも、王家に対してもそれなりの寄付を金品で贖っているはずだ。
そして本来であれば子供を譲り渡す男爵家も貴族籍を変更する手続きとして、多少なりとも寄付を行うはずなのだが──リグレが調べた限りでは、そのような『貴族らしい』ことを行ったという記録はない。
「……いや、しかし…父上が、まさか男爵家の分まで負担を……?いったい……」
『アーウェン』という少年は、何なのか。
父から届いた『手紙』には、アーウェンや食事の時に臨時に給仕として付いていた少年がかかっていた何かの『呪い』からは王都を離れてから解放されたこと、そして年相応の成長の兆しが見え始めたことなどが、幾枚にもわたって綴られていたが、そのどれにもアーウェンの元の家族のことなど一切書かれていない。
何だかまるで最初から、アーウェンには家族などなかったかのようである。
アーウェンをまるで屑か何かのように語るサウラス家の兄弟を思えば、父がアーウェンから何を聞いていようとそれを記すことはないのかもしれないが、それにしては不自然なほど、サウラス男爵家にいた頃の話が紙面に上がってこない。
気持ち悪い。
『目障りなモノがいなくなって、清々した』と嬉しそうに話す元の家族たち。
何故彼らは、年端もいかないとわざわざ表現するもバカバカしいほどの幼すぎる弟を放置し、酷使し、しかもそのことに罪悪感を抱きもしないのか。
本当に誰も、何も感じていないのか。
「……領主夫人」
ふっと話の中に出てきた、ひとりの女性のこと。
現男爵の妻ではなく、長男の妻。
名前は何と言ったか──彼女は王都出身ではなく、サウラス男爵が治める領村に近い別の村に住んでいた豪農の娘らしいが、かなりの美貌の持ち主で、そこを長男は見初めたらしい。
だが母のように夫に従順すぎるほどの性格ではなく、まるで荷物のように扱われて領村に連れられてきたアーウェンを気にかけ、さらに村に滞在していた兵士たちに半死の目に合わされたアーウェンの怪我を癒したと、まるで彼女が大罪を犯したかのようにミージャスは顔を歪めた。
『あの女……兄さんに従わない……生意気な……』
まるで呪詛のような呟きを吐いた後、ミージャスは突然正気を取り戻したようにシャキンと姿勢を正し、先ほどまでの酔っぱらったような態度を取っていたことを忘れたかのように、まさしく商人のような丁寧な口調に戻り、「怠けていられないから」と時間を言い訳にリグレに別れを告げた。
ちなみにその時ふたりがいたのは年若い貴族令息たちが自分の身の丈に合った食事処として利用する料理屋であったが、ミージャスは自分より年下の伯爵令息が支払いを持つという言葉に、にんまりと嫌な笑いを浮かべながら遠慮なく飲み食い散らかしたのだった。
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