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第二章 アーウェン少年期 領地編
幼い令嬢は友達を呼ぶ ③
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ルダンとタリーは綺麗な服を着た女の人に連れられ、町の外にある建物に連れていかれた。
それは自分たちが住んでいたのとはまったく方向違いで、行くのも徒歩ではなく、何人も乗れる大きな馬車だった。
どこかの貴族に売られたのか──タリーは状況を飲み込めなかったが、教養はなくとも年齢相応に警戒心のあるルダンは思わず身構えたが、ロメリアと共に見送りに出てきたメイドのひとりが親しそうにその人に話しかけ、「よろしく頼むわね」「ええ、もちろん!我が校にそんなひどい父親なんか入れるもんですか!」という会話に、思わずポカンとする。
「……ルダン、だったわね?」
「あ……は……はい……」
「歳は?」
「とし?」
「そう。今年いくつになったの?」
「えぇと……な、なな…つ?」
実はルダンは自分の歳をしっかりと把握していない。
母親が溜息をつきながら自分を眺め、こう呟いたのを聞いただけである。
「まったく……まだ七歳なんて……少なくとも十にならなきゃ下働きにも出せないなんて……」
たぶんそれが自分のことだろうことは察しがついたが、それに確信が持てなかったのは、父親に振り回されるように身体を揺さぶられ、さらに何度か殴られた後だったから、朧でも覚えているだけ上出来だったというものだ。
どうしてそうなったんだか覚えていないが、確かその日は貴族の娘と目が合ったのはいいが、金ではなく温かさの残る紙袋を渡され、それを持って帰った後だった気がする。
父親はその袋を乱暴に逆さまにし、美味そうな匂いのするパンをテーブルの上にぶちまけた。
「こんなもん!酒が買えねぇじゃねぇか!」
それは父親の味覚に合わない子供の好きそうな菓子パンばかりだったのが怒りのスイッチを入れ、テーブルからそれらを叩き落とした後、そんな物しかもらってこなかったルダンへと拳が振るわれたのである。
母親はその隙にパンを全て集めて隠し、タリーが起き出して泣かないようにとギュッと抱き締めて、ルダンが殴られたり投げ飛ばされても見ない振りをした。
だがそのパンがあったからこそ、ルダンがボロボロになって外で物乞いができない間、少しずつ固くなっていくパンであっても口にすることができたのであり、父から素早く隠してくれた母のことを恨んではいない。
「そう、七つ」
もちろんその女性は、ターランド伯爵家の者が町の役場に行って調査したこの幼い兄妹の身元をしっかり知っていたが、兄の方がちゃんと知能があるのかを確認しただけである。
こんな家の子供が教会の初級教室に通わせてもらえないことは百も承知であり、読み書きどころか誕生を祝われることがないために、働きに出るまで自分の年齢を知らない場合があることもわかっていた。
それでも何らかの理由で自分の年齢を知っているということは喜ばしく、自分が勤めている学校への編入はできないまでも、下働きをさせながら少しずつ知識を与えればよいと考えていたのである。
「わたくしはこの町から少し離れた丘にある寄宿学校の副教頭を務めているラシア・ミダルン・シューと言います。シュー先生と呼ぶように」
「は……はい……」
「これからあなたたちふたりは、わたくしと共にその寄宿舎に参ります」
「え……い、家…は……?」
「今日あなたたちをお呼びになったエレノア・イェーム・デュ・ターランド伯爵令嬢のお父上、このターランド伯爵領の大領主様であるラウド・ニアス・デュ・ターランド卿が様々に町のことを正すために動かれ、あなたたちのご両親もその対象になりました。そのためあなたたちの帰る家も調査されるので、あなたたちを養育する者がいません。故にわたくしがあなたたちだけでなく、この町で幼い子供たちを皆連れて行きます」
「は…あ……?」
よく分からないまま手を振るエレノアと別れ、促されて乗ったのがこの馬車だった。
馬車にはルダンより少し大きい女の子を筆頭に数人の子供が先に乗っており、扉が開いた瞬間に少しでも隅に行こうとギュッと馬車の奥へと集まったのが見える。
「面倒はなかった?」
「はい。逃げ出そうとしましたが、警護兵様が阻止してくださいました」
「そう……ではこれからもうひとつの娼館に向かいましょう。まだ十二歳の少女がふたりほどいるそうです」
「了解しました!」
そうしてその言葉通りに娼館から痩せ細った女の子がふたり、さらにルダンたちよりは少しいい暮らしをしているぐらいの子供を数人乗せた馬車は、町の外を目指して石畳から土に代わった道を走り緩やかな坂道を登り始めた。
それは自分たちが住んでいたのとはまったく方向違いで、行くのも徒歩ではなく、何人も乗れる大きな馬車だった。
どこかの貴族に売られたのか──タリーは状況を飲み込めなかったが、教養はなくとも年齢相応に警戒心のあるルダンは思わず身構えたが、ロメリアと共に見送りに出てきたメイドのひとりが親しそうにその人に話しかけ、「よろしく頼むわね」「ええ、もちろん!我が校にそんなひどい父親なんか入れるもんですか!」という会話に、思わずポカンとする。
「……ルダン、だったわね?」
「あ……は……はい……」
「歳は?」
「とし?」
「そう。今年いくつになったの?」
「えぇと……な、なな…つ?」
実はルダンは自分の歳をしっかりと把握していない。
母親が溜息をつきながら自分を眺め、こう呟いたのを聞いただけである。
「まったく……まだ七歳なんて……少なくとも十にならなきゃ下働きにも出せないなんて……」
たぶんそれが自分のことだろうことは察しがついたが、それに確信が持てなかったのは、父親に振り回されるように身体を揺さぶられ、さらに何度か殴られた後だったから、朧でも覚えているだけ上出来だったというものだ。
どうしてそうなったんだか覚えていないが、確かその日は貴族の娘と目が合ったのはいいが、金ではなく温かさの残る紙袋を渡され、それを持って帰った後だった気がする。
父親はその袋を乱暴に逆さまにし、美味そうな匂いのするパンをテーブルの上にぶちまけた。
「こんなもん!酒が買えねぇじゃねぇか!」
それは父親の味覚に合わない子供の好きそうな菓子パンばかりだったのが怒りのスイッチを入れ、テーブルからそれらを叩き落とした後、そんな物しかもらってこなかったルダンへと拳が振るわれたのである。
母親はその隙にパンを全て集めて隠し、タリーが起き出して泣かないようにとギュッと抱き締めて、ルダンが殴られたり投げ飛ばされても見ない振りをした。
だがそのパンがあったからこそ、ルダンがボロボロになって外で物乞いができない間、少しずつ固くなっていくパンであっても口にすることができたのであり、父から素早く隠してくれた母のことを恨んではいない。
「そう、七つ」
もちろんその女性は、ターランド伯爵家の者が町の役場に行って調査したこの幼い兄妹の身元をしっかり知っていたが、兄の方がちゃんと知能があるのかを確認しただけである。
こんな家の子供が教会の初級教室に通わせてもらえないことは百も承知であり、読み書きどころか誕生を祝われることがないために、働きに出るまで自分の年齢を知らない場合があることもわかっていた。
それでも何らかの理由で自分の年齢を知っているということは喜ばしく、自分が勤めている学校への編入はできないまでも、下働きをさせながら少しずつ知識を与えればよいと考えていたのである。
「わたくしはこの町から少し離れた丘にある寄宿学校の副教頭を務めているラシア・ミダルン・シューと言います。シュー先生と呼ぶように」
「は……はい……」
「これからあなたたちふたりは、わたくしと共にその寄宿舎に参ります」
「え……い、家…は……?」
「今日あなたたちをお呼びになったエレノア・イェーム・デュ・ターランド伯爵令嬢のお父上、このターランド伯爵領の大領主様であるラウド・ニアス・デュ・ターランド卿が様々に町のことを正すために動かれ、あなたたちのご両親もその対象になりました。そのためあなたたちの帰る家も調査されるので、あなたたちを養育する者がいません。故にわたくしがあなたたちだけでなく、この町で幼い子供たちを皆連れて行きます」
「は…あ……?」
よく分からないまま手を振るエレノアと別れ、促されて乗ったのがこの馬車だった。
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「面倒はなかった?」
「はい。逃げ出そうとしましたが、警護兵様が阻止してくださいました」
「そう……ではこれからもうひとつの娼館に向かいましょう。まだ十二歳の少女がふたりほどいるそうです」
「了解しました!」
そうしてその言葉通りに娼館から痩せ細った女の子がふたり、さらにルダンたちよりは少しいい暮らしをしているぐらいの子供を数人乗せた馬車は、町の外を目指して石畳から土に代わった道を走り緩やかな坂道を登り始めた。
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