その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か？

第一章 アーウェン幼少期

伯爵は問題点に悩む

アーウェンに学ばせることは様々にある──そう気づいたラウドは、ロフェナに命じてクレファーの他にラリティスや即席合唱隊の指揮を執っていたガベルという執事を臨時の教養講師としてアーウェンやカラに、ターランド伯爵領に伝わる伝統芸能などを教える手配を執った。
むろん礼儀作法なども必要なため、挨拶の他にもいろいろと作法を教えねばならない。
「……これではアーウェンと一緒に、私の馬車で移動することができないではないか！」
そもそも『二年間で可能ならば高等教育まで詰め込む』という無茶ぶりをクレファーに投げかけたのだから、そもそもラウドと触れ合う時間が無くなっておかしくはない。
移動中とはいえラウドには伯爵家当主としての仕事もあり、子供たちとのんびり過ごすという庶民的な楽しみは、このような季節外れの大移動では見出せないと思って覚悟していなければいけなかったのだ。
「……では、アーウェン様をご友人へお預けになることをもう少し先に延ばされては？」
「それ、は……」
グッと言葉を飲み込むラウドは、何かを悩みながら頭を振る。
「いや……それは、難しい。辺境の環境を考えると、なるべく早くアーウェンを馴染ませた方がよい。それに……一応は契約を交わしたのだ、サウラス男爵と」
魔力のないサウラス男爵はまったく気が付かなかったが、支度金を受け取ったのにアーウェンをこっそりと邸から連れ出されないよう、交わした養子縁組契約書には魔術が組み込まれていた。
強力な術とするには代償が必要で、それは『ターランド伯爵が期限までにアーウェンを辺境伯に預けねば、その身柄を男爵に戻す』というものである。
その部分はラウドが決めた『二年』という歳月に少し余裕を持たせたプラス半年が過ぎた後に浮かび上がるようになっているため、今見ても何の変化もないし、改めて男爵が王宮の契約保管所に養子縁組契約書の閲覧を求めるとは思えないが──まさかここまでアーウェンの育てられた環境が悪いと想像がつかずに、すぐさま邸に置けるようにと先に手を回したのが失敗だった。
「しかし、父親に先に言質を取ってからアーウェンを返さずに済んだことは先見だったが……」
「ええ。まさかあのように劣悪な状態に置かれているとは……恥ずかしくも、ターランド伯爵家の血に連なるお家ですのに」
ラウドとロフェナがそれぞれ考え込む。