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第一章 アーウェン幼少期

伯爵は知己に手綱を戻す ④

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とりあえず無茶な早駆けを強いられた農耕馬には飼い葉と水を与え、使者にも食事と休憩を取ってもらった。
いずれ正式な文書が礼儀に則った形でもたらされるだろうが、ラウドは自分の方から使者の伝言を受け取ったことと、そこから得たものが間違いないかの問い返し、そして今後は至急の際に遣わす魔導伝書鳥を預けることを認めた。
今夜は使者を返すことなく野営に加え、また馬も強行走破に耐えうる馬を一頭貸し与えるつもりである。
「帰りの際に今乗ってきた馬を返すであろうから、怪我や疲労がないことを確認し、安全に保護せよ」
「ハッ」
「ロフェナはアズ町に残してきたアンナとジェンガー夫妻に従うように、魔導伝書鳥を整えよ」
「はい」
「……今のところ、問題はないな?」
「はい。クレファー殿は現在、アーウェン様、エレノア様、そしてカラの勉強のために新しく購入されたアーウェン様の馬車におります。ご家族とはその後接触はありませんが、あちらもお嬢さんの行動にはかなり気を付けられていると。料理人たちの中でもニィザがよく世話をしているようです」
「そうか。不自由をかけるが、その分の補償はいずれ領都に戻ってから考えよう。誰か人をやって、その旨を伝えるように」
「お心遣い、確かにお伝えいたします」
ラウドもロフェナもあまり深刻にならず、淡々と事務処理が行われる。
使者はすでに兵たちに連れられ、道中のことを気持ち良く喋りながら飲み食いをしているが、おそらくこの道程で秘匿しなければならないことを漏らしていないかと誘導されていることには、まったく気が付いていないようだ。
人の良い使用人だと言えないこともないが、使者としての資質を疑い要再教育を促す短い一筆文をラウドの報告書と共に伝書鳥に託す。
ジェンガーは門番ではあるが故に来訪者を見極める目は確かなため、ロフェナが言わんとすることを正しくグリアース伯爵に伝えてくれるはずだ。


翌朝、ほとんど休憩を取らずに馬を走らせてきた疲労がなくなったことに驚いた使者が、ラウドに向かって最敬礼を何度も繰り返した。
借りて走らせてきた馬もその家から引っ張り出された時よりずっと毛並みも良くなり、同じ馬かと目を瞠るが、さらに立派な馬を与えられることに慄く。
「この馬はアズ町のグリアース伯爵家別邸にいる門番に預けてくれればよい。いずれ我が領の者が引き取りに行くと伝えれば、よく面倒を看てくれるはずだ。またこれをグリアース家の馬を預け、この馬を返す家に礼として渡してほしい」
「こっ…これは……いえっ!馬を借りた者もグリアース伯爵領の者ですから、このようなお気遣いはっ……」
「そうか……しかし、グリアース伯爵がこの馬の持ち主に礼をするのも、今回の件が片付くまでは難しかろう。それに。ターランド伯爵より馬を貸してくれたため、滞りなく知らせを届ける手助けをしてくれた礼を伝えてもらいたいのだ」
「はっ…はいっ……」
何やらいたく感動しているのはけっしてこの使者にも特別に手当てを出したためではないようで、同じ伯爵家としていささか心配になるほど純朴な家来であった。


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