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第一章 アーウェン幼少期
伯爵は義息子の記憶を慮る ①
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調査が入らなかった店は無く、しかも数軒の農家や酪農を行う者からクージャに生産した物を巻き上げられたり、無断で持って行かれたという訴えを起こしてくれた者もようやく表れてくれた。
「……ヤラかしてくれとるなぁ、あいつは……」
「ええ。すごいです。親から継ぐものと決めてかかって、好き勝手してよいと勘違いしているのでしょう。いや…単に与えられたものを巨大な玩具としてしか扱えなかったのか……」
精査した結果、自ら進んでクージャに従っていた者はほぼ先代から家業を譲られた同年代ばかり。
逆に迷惑を被っていた者は、ターニャ・クリウム・デュ・グリアース伯爵夫人の信頼が厚く、また彼女と幼い頃から交流のあった者ばかりだった。
狙ってそうしたのかはわからないが、少なくとも町長代理のやり方を是としない者たちばかりが迫害や嫌がらせを受け、不利益を被っていることだけはよくわかる。
「しかもこの度、クージャが留守にする際にはお気に入りの者を連れて行ったため、残ったゴマすりどもがお前さんたち一行をいいカモだと思ったわけか……いや、今までもどこかの家に迷惑をかけていたかもしれんのぅ……道理で我が領地でも私たちの屋敷に来ても、他の町などに立ち寄ることを避けると思ったよ」
小さな変化はあったのだろうが、さすがにいい大人になった領主の息子がバカなことをしているとは思わずに、ただ訪ねてきた友人知人を迎えていたのだろう。
それがターランド伯爵たちから度の過ぎた搾取を行おうとし──面子を重んじる貴族たちはたとえ吹っ掛けられても文句は言えず、逆にグリアース伯爵領を避ける結果となったに違いないが──結果的に悪事を暴かれる結果を招いたの、まさしく自業自得。
そして町の良心とも言えるターニャ夫人からの信頼の厚い者を食肉工場での労働へと追いやり、代わりに堕落と不正を否定しない取り巻きばかりを重用して町政を腐敗させ、もう少しでこのアズ町を含む近隣地域がグリアース伯爵領から国庫に戻され、どこか別の貴族に与えられたかもしれないのだ。
「……それが狙い、か?」
「どこの誰が……とまではいかんが、まあ…うちのバカ息子に近付く女をとっ捕まえられれば、少なくともどういった伝手で取り入ったのぐらいはわかろうよ」
公園の中でカラはアーウェンがおかしくなる前から説明を始める。
「アーウェン様は『公園』で遊ばれたこともないようで、滑り台やジャングルジムなどもありますが、まずはブランコを……ただ、漕ぎ方もご存じなく」
「そ!そうなのじゃ!何だ?あの子は……外遊びというものをしたことがないのか?あれぐらいの子ならば、もう身体が疼いて仕方ないとばかりに駆け回るもんだと思っておったが……この町の三歳児より大人しゅうて……爺はもう心配でならんよ……」
あまり会えてはいないとはいえ、長男のところの子供も元気よく王都の屋敷内にある運動室で元気よく遊びまわっている。
それなのにアーウェンは──
「そ、それはあの、ともかく……しばらくブランコで遊んでいたのですが、あちらの藪で動くものを見付けた瞬間に目の色が変わるというか、雰囲気が変わりまして」
距離からするとそんなに離れていないものの、いつも躊躇ってから動き出すアーウェンとは違って藪の中に飛び込み、カラが後を追って止める間もなく、手頃にあった石を使って子ウサギを──
そう言いながら案内したそこには黒っぽい跡が残っているが、残骸はすでに取り除かれている。
「……あの頃はできなかった。今はできるようになった。成長ではあるが……できればそんな確認をしたくはなかった」
「……はい。私も仕事として魚や小動物を捌くことはありましたが……自分で必要のない命を取ったことは……」
ラウドの悲しそうな声に、カラも俯いてグッと手を握りこんだ。
「……ヤラかしてくれとるなぁ、あいつは……」
「ええ。すごいです。親から継ぐものと決めてかかって、好き勝手してよいと勘違いしているのでしょう。いや…単に与えられたものを巨大な玩具としてしか扱えなかったのか……」
精査した結果、自ら進んでクージャに従っていた者はほぼ先代から家業を譲られた同年代ばかり。
逆に迷惑を被っていた者は、ターニャ・クリウム・デュ・グリアース伯爵夫人の信頼が厚く、また彼女と幼い頃から交流のあった者ばかりだった。
狙ってそうしたのかはわからないが、少なくとも町長代理のやり方を是としない者たちばかりが迫害や嫌がらせを受け、不利益を被っていることだけはよくわかる。
「しかもこの度、クージャが留守にする際にはお気に入りの者を連れて行ったため、残ったゴマすりどもがお前さんたち一行をいいカモだと思ったわけか……いや、今までもどこかの家に迷惑をかけていたかもしれんのぅ……道理で我が領地でも私たちの屋敷に来ても、他の町などに立ち寄ることを避けると思ったよ」
小さな変化はあったのだろうが、さすがにいい大人になった領主の息子がバカなことをしているとは思わずに、ただ訪ねてきた友人知人を迎えていたのだろう。
それがターランド伯爵たちから度の過ぎた搾取を行おうとし──面子を重んじる貴族たちはたとえ吹っ掛けられても文句は言えず、逆にグリアース伯爵領を避ける結果となったに違いないが──結果的に悪事を暴かれる結果を招いたの、まさしく自業自得。
そして町の良心とも言えるターニャ夫人からの信頼の厚い者を食肉工場での労働へと追いやり、代わりに堕落と不正を否定しない取り巻きばかりを重用して町政を腐敗させ、もう少しでこのアズ町を含む近隣地域がグリアース伯爵領から国庫に戻され、どこか別の貴族に与えられたかもしれないのだ。
「……それが狙い、か?」
「どこの誰が……とまではいかんが、まあ…うちのバカ息子に近付く女をとっ捕まえられれば、少なくともどういった伝手で取り入ったのぐらいはわかろうよ」
公園の中でカラはアーウェンがおかしくなる前から説明を始める。
「アーウェン様は『公園』で遊ばれたこともないようで、滑り台やジャングルジムなどもありますが、まずはブランコを……ただ、漕ぎ方もご存じなく」
「そ!そうなのじゃ!何だ?あの子は……外遊びというものをしたことがないのか?あれぐらいの子ならば、もう身体が疼いて仕方ないとばかりに駆け回るもんだと思っておったが……この町の三歳児より大人しゅうて……爺はもう心配でならんよ……」
あまり会えてはいないとはいえ、長男のところの子供も元気よく王都の屋敷内にある運動室で元気よく遊びまわっている。
それなのにアーウェンは──
「そ、それはあの、ともかく……しばらくブランコで遊んでいたのですが、あちらの藪で動くものを見付けた瞬間に目の色が変わるというか、雰囲気が変わりまして」
距離からするとそんなに離れていないものの、いつも躊躇ってから動き出すアーウェンとは違って藪の中に飛び込み、カラが後を追って止める間もなく、手頃にあった石を使って子ウサギを──
そう言いながら案内したそこには黒っぽい跡が残っているが、残骸はすでに取り除かれている。
「……あの頃はできなかった。今はできるようになった。成長ではあるが……できればそんな確認をしたくはなかった」
「……はい。私も仕事として魚や小動物を捌くことはありましたが……自分で必要のない命を取ったことは……」
ラウドの悲しそうな声に、カラも俯いてグッと手を握りこんだ。
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