その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

老伯爵は町の膿を見つける ①

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その後はロフェナとカラ、クレファーとアーウェンの側にある三人だけで宿屋を出、町を散策することにした。
シェイラの話は出ない──少なくとも、カラがいる前でする話ではないと年長のふたりが判断し、それよりもアーウェンやエレノアのためにまた知育玩具や本などがないかと見て回る。
さすがに見慣れない顔の一行がグリアース伯爵の知己だと知られたのか、最初にこの町に訪れた時のようなひどい『旅行者向け』の値段は提示されなくなったが、その代わり忌々しそうな態度を隠そうとしなくなった。
娯楽用の新品の本はせいぜい定価の三倍ほどになり、新鮮な野菜や果物、肉は使用人たちが買うよりも三割ほど高く売りつけられるが、ターランド伯爵家が率いる馬車と連れている人数を考えれば、それより三十倍でも支払っても痛くもないくせに──と言わんばかりに鼻を鳴らされるが、平民であるカラもクレファーが自分たちの出身場所の価格とロフェナに提示される金額に文句を言う。
「なっ……お前ら貴族なんだろうが!これぐらい払ったって、痛くもかゆくもないだろうが!何だってケチりやがる。俺たち平民にだって生活ってもんがあ……」
「私は『平等市』から来たからね。貴族向けの価格なんて知らないよ」
「俺も王都から来たけど、育ったのは貧民院だからなぁ……ここのもんより質は悪いけど、それでも銅貨一枚で子供三人は腹いっぱい食べられるようにって、籠一杯のパンを売ってくれる気の良いおばちゃんがいたよ」
クレファーの言う『平等市』は通称であるが、それでも意味は通じて肉屋の親父はグッと口を噤む。
貴族も平民も身分など関係なく、みな平等に扱われる──だからこそ特別扱いに慣れている伯爵以上は市にはおらず、逆に貧乏で土地も持たないがために王都では生活が厳しい子爵以下が集まる市だということは有名だった。
そして王都の端にあるからこそ流通の要となって、バカみたいに価格を吊り上げることもなく皆だいたいは幸せに暮らせているという話は、地方で貴族たちの搾取に耐えている平民たちにとっては憧れを持って語られている。
また王都の貧民街の酷さもまた噂として流れており、この町で平和に暮らすよりも酷い所だと認知されているのだ。
「そうですね。私はともかく、クレファーさんならちょっと痛い出費で、母君や妹さんに仕送りをせねばならないカラにしてみれば、たとえ伯爵家で支払われる給金の残りでは『痛くもかゆくもない』というには程遠い金額ですねぇ」
「ええ、だからといって施しをいただくわけにはいきませんから、俺はここで買うのは辞めておきます」
「私もだな。それならばグリアース伯爵に了承いただいて、野草を摘むこととしたい」
「おや、野草料理の知恵がおありで?」
「ああ、祖母の故郷では珍しくはないのだが、こちらでは林の中に自生しているだけの草があるんだ」
店主そっちのけで青年と少年たちで話していると、カチャッと扉が開き、ニコニコとしたグリアース伯爵が入ってきた。

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