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第一章 アーウェン幼少期

家庭教師は妹を論破する ①

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へたり込んでなお自分の美貌を見せつけようとする少女の肩を乱暴に掴んで無理やり立たせると、その男はグッと頭を押すと同時に自分も頭を下げた。
「ロフェナ殿!申し訳ない。さすがにこれだけの期間、一目も自分にくれないとなれば気付くかと思ったのだが……我が妹ながらまったく呆れる!世間知らずでお恥ずかしい限りだ……身分を弁え、ターランド伯爵様にご迷惑をかけるなと言っただろう?!」
「…っでも……」
「ハァ……やっぱりお前はわかっていないな。俺はアーウェン様の家庭教師として雇われているが、父と母はターランド伯爵領への誘致として、我が店ごと引き取られたのだ。お前は父さんや母さんとは違って雇用されたんじゃない。ふたりの子供として、保護すべき者として連れてきてもらっているに過ぎないんだ。いや、父さんと母さんも雇用とは違うな……単に『ターランド伯爵領都で店を開いてくれ』と誘われたに過ぎない。この旅の途中で自分たちが得た金で材料を買い、ガブス料理をターランド伯爵ご夫妻に振舞ったとしても、ご夫妻は『料理店パルセのガブス料理を食べた』として代金を払ってくれるだろう。そんな関係なんだ」
「だっ、だからって……」
ボタボタと涙を床に落としながら、ロフェナではなく兄の方を見ようと頭を押さえつける手を払いのけ、シェイラは身体を起こした。
だがその反論を許さず、クレファーは諭し続ける。
「お前は何故ロフェナ殿が自分に応えてくれないのか?と思っているんだろうが……さっきも言われただろう?ロフェナ殿にはもう将来を誓った相手がいる。その方を裏切る気はないと。貴族と我々平民とでは立場も倫理感も責任も違う。そのお相手が何方かは俺も知っているが、お前に教えることはできない。お前は……ターランド伯爵家の執事職の方と同等の地位があるわけではないからだ」
「じゃっ……じゃあ!どうして兄さんは知っているの?兄さんだって平民じゃない!いくら……いくら、伯爵家で職を得たからって!」
「ああ。職をもらったよ。厨房や厩や庭仕事をする下級使用人でもなく、ロフェナ殿やカラ殿のような主人の側にいる上級使用人でもなく、だが身分として上級使用人に近い『家庭教師』という教育に特化した者として。俺は今、ターランド伯爵家で目にするもの、耳にするものに関して、けっして『他人』に漏らさないという制約を持ってお仕えしているんだ。それは……ターランド伯爵家に雇われていない『家族』に対しても、だ」
「そ……んな……ず、狡い………」
「狡くはないさ。偶然にこうやって思いがけない職を得たが、俺はその運も含めて、努力してきた結果だと思っているよ。お前は……どうだ?」
「え?」


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