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第一章 アーウェン幼少期
少年従者は憂いを失くす ②
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それからのグリアース伯爵夫妻の動きは早かった。
まず半年以内に夫妻で王都に戻り、そこからさらに半年間かけてカラの母親と妹を説得してアズ町に連れてくる。
その間に次男のクージャを鍛え直すために、ターランド伯爵家から執事や会計、その他必要な人材を送り込んで新しい使用人に手を出すようなクズから真っ当な当主へと成長させる。
できなければ先ほどターランド伯爵たちも交えた話でしたように、今後は領地どころか領邸を出ることが叶わないようにする。
カラには定期的に母子の様子を知らせ、代わりにカラも自分がどこで何をしているのかを知らせる。
クージャが役に立たなかった場合はこのアズ町の管理をカラかその妹に任せたいので、そのつもりで勉強に励むこと。
カラの意志はもちろん尊重されるようではあるが、それでもけっこう強引に事が進められるようである。
「今日中に役場と食肉工場の者を入れ替えようかのう」
「ええ。他にも希望者を募って、いろいろ配置換えをしなければ」
「私たち領主一家にだけいい顔をするような不心得者は、性根を叩き直してやらねば……まずはラウドたちに迷惑をかけた宿屋かの?」
「そうですわね!というか、おそらくクージャの子分になっている者の大半が工場送りになりましょうから、男手が足りなくなるかも……?」
そこからは領地から幾家族をこちらに移住させるかなど『領主』としての話になるということで、ようやくカラをアーウェンの元に戻してもらえることになった。
離れてはいても屋敷の外に行ったわけではなかったので、朝食を食べた大食堂に戻ったが、そこはすでに通いの使用人と共にターランド伯爵家の使用人が清掃に入っていた。
ターランド家の者たちは多少なりとも魔力持ちのため、それを仕事の補助に用いていたが、普通の人間ではそれは叶わない。
なのでそんな力が無くとも要領よく潤滑に手早く仕事をする方法を伝授していた。
中には「便利な力があるくせに…」といじけたように聞く耳を持たず、おざなりに仕事をしている振りをしている者もいたが、今回の責任者となったターランド伯爵家の女中がチラリとその者に視線をやって記憶しているのを見る。
カラも厨房にいる時から何となく感じていたが、特に全体を見てそれぞれの働きを記憶できる者が、後ほど家事使用人責任者に報告するのだ。
今かなり不満を抱えている者は後ほど解雇通告を言い渡されるかもしれないが、それは今後もこの地で生活する者が負わねばならぬ運命だとわかっているので、カラは自分もそのように周囲に気を回す術を得なければとそちらの方を学ぼうという姿勢である。
「お仕事中申し訳ないですが、アーウェン様たちはどちらに……?」
「ああ、カラさん」
かなり厳しい目で使用人たちを監督していた女中は、視線を和らげてにっこりと笑う。
その態度の違いにますます口を尖がらせながらバタバタと誇りを立てるような掃除を行う者に、カラだけでなく女中も素早く視線を送り、そのまま無視をした。
「アーウェン様はエレノアお嬢様とご一緒に上の応接間の方へ。おふたりがお休みになっていたお部屋にいらっしゃいますよ?」
「あっ、ありがとうございます!さっそく参ります」
「あ……ちょっとお待ちなさい。用意した物を」
いつの間にか側に寄ってきていた別の女中が軽く合図されると、いつの間に用意したのか、ワゴンの上にティーセットが用意されていた。
零しても害のないお菓子やサンドイッチなどの軽食が乗ったお盆がカラに手渡され、水差しとティーセットはその女中が持って、大食堂から応接室へ向かうようにと言われる。
「軽食はそのままお昼ごはんにおあがりくださいと。旦那様はグリアース伯爵閣下と共にお出掛けになられるそうです。奥様はグリアース伯爵夫人とご昼食を取りつつ会談なさりたいとのことですので、本日はおふたりでお過ごしくださいと、アーウェン様とエレノアお嬢様にお伝えください」
「はい、わかりました」
カラがしっかり頷くと、ふんっと鼻息を上げ、聞こえよがしに文句を言う声が聞こえた。
「あーあ。まったく……何さ、偉そうに……お貴族様だか何だか知らないけど、しゃっちょこばっちゃってさぁ。そんな伝言ぐらい、自分で行きゃあいいのに、ガキに言ったってちゃんと伝えられるもんか!」
「ちょっと……お止めよ……」
「何さ!すぐ出て行くやつにアレコレ命令されて、あんたは悔しくないの?ちょっとくらい仕事ができるからって…いいや、魔法が使えるからって、自分たちは楽に仕事してるくせにえばるんじゃないっての!」
「止めなって……」
だんだんと自分の言葉に興奮してきたらしいその使用人は、呆然とするカラをギロリと睨みつけ、襲うように怒鳴りつけ始めた。
まず半年以内に夫妻で王都に戻り、そこからさらに半年間かけてカラの母親と妹を説得してアズ町に連れてくる。
その間に次男のクージャを鍛え直すために、ターランド伯爵家から執事や会計、その他必要な人材を送り込んで新しい使用人に手を出すようなクズから真っ当な当主へと成長させる。
できなければ先ほどターランド伯爵たちも交えた話でしたように、今後は領地どころか領邸を出ることが叶わないようにする。
カラには定期的に母子の様子を知らせ、代わりにカラも自分がどこで何をしているのかを知らせる。
クージャが役に立たなかった場合はこのアズ町の管理をカラかその妹に任せたいので、そのつもりで勉強に励むこと。
カラの意志はもちろん尊重されるようではあるが、それでもけっこう強引に事が進められるようである。
「今日中に役場と食肉工場の者を入れ替えようかのう」
「ええ。他にも希望者を募って、いろいろ配置換えをしなければ」
「私たち領主一家にだけいい顔をするような不心得者は、性根を叩き直してやらねば……まずはラウドたちに迷惑をかけた宿屋かの?」
「そうですわね!というか、おそらくクージャの子分になっている者の大半が工場送りになりましょうから、男手が足りなくなるかも……?」
そこからは領地から幾家族をこちらに移住させるかなど『領主』としての話になるということで、ようやくカラをアーウェンの元に戻してもらえることになった。
離れてはいても屋敷の外に行ったわけではなかったので、朝食を食べた大食堂に戻ったが、そこはすでに通いの使用人と共にターランド伯爵家の使用人が清掃に入っていた。
ターランド家の者たちは多少なりとも魔力持ちのため、それを仕事の補助に用いていたが、普通の人間ではそれは叶わない。
なのでそんな力が無くとも要領よく潤滑に手早く仕事をする方法を伝授していた。
中には「便利な力があるくせに…」といじけたように聞く耳を持たず、おざなりに仕事をしている振りをしている者もいたが、今回の責任者となったターランド伯爵家の女中がチラリとその者に視線をやって記憶しているのを見る。
カラも厨房にいる時から何となく感じていたが、特に全体を見てそれぞれの働きを記憶できる者が、後ほど家事使用人責任者に報告するのだ。
今かなり不満を抱えている者は後ほど解雇通告を言い渡されるかもしれないが、それは今後もこの地で生活する者が負わねばならぬ運命だとわかっているので、カラは自分もそのように周囲に気を回す術を得なければとそちらの方を学ぼうという姿勢である。
「お仕事中申し訳ないですが、アーウェン様たちはどちらに……?」
「ああ、カラさん」
かなり厳しい目で使用人たちを監督していた女中は、視線を和らげてにっこりと笑う。
その態度の違いにますます口を尖がらせながらバタバタと誇りを立てるような掃除を行う者に、カラだけでなく女中も素早く視線を送り、そのまま無視をした。
「アーウェン様はエレノアお嬢様とご一緒に上の応接間の方へ。おふたりがお休みになっていたお部屋にいらっしゃいますよ?」
「あっ、ありがとうございます!さっそく参ります」
「あ……ちょっとお待ちなさい。用意した物を」
いつの間にか側に寄ってきていた別の女中が軽く合図されると、いつの間に用意したのか、ワゴンの上にティーセットが用意されていた。
零しても害のないお菓子やサンドイッチなどの軽食が乗ったお盆がカラに手渡され、水差しとティーセットはその女中が持って、大食堂から応接室へ向かうようにと言われる。
「軽食はそのままお昼ごはんにおあがりくださいと。旦那様はグリアース伯爵閣下と共にお出掛けになられるそうです。奥様はグリアース伯爵夫人とご昼食を取りつつ会談なさりたいとのことですので、本日はおふたりでお過ごしくださいと、アーウェン様とエレノアお嬢様にお伝えください」
「はい、わかりました」
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「ちょっと……お止めよ……」
「何さ!すぐ出て行くやつにアレコレ命令されて、あんたは悔しくないの?ちょっとくらい仕事ができるからって…いいや、魔法が使えるからって、自分たちは楽に仕事してるくせにえばるんじゃないっての!」
「止めなって……」
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