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第一章 アーウェン幼少期
少年は改めて挨拶をする ②
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ターランド伯爵家の面々にしてみればアーウェンの表面ではなく内面の変化に喜ぶあまり、ターニャ夫人が気が付いたアンバランスさに目を瞑ってしまった。
だってそれはいずれ取り戻せるはずのものだから──八歳という年齢には程遠いその細い身体は。
「……まぁ……なんて……可哀想に……」
クッと小さく嗚咽を飲み込み、ターニャ夫人は自分の側に来るようにと手招きした。
義父であるラウドの方へアーウェンが顔を向けると、安心させるように頷かれ、従者であるカラの手を少し躊躇いつつも離してそちらに向かう。
王都によくいるひ弱な子供ではなく、野山を駆ける丈夫な男の子三人も産んだ元・町娘であるターニャ夫人は、あり得ないほどに細い少年を優しく抱きしめた。
「初めまして。私はターニャ・クリウム・デュ・グリアース。こちらにいるタークジャ・デルー・デュ・グリアースの妻よ。ターニャ小母様と呼んでくれると嬉しいわ。あなたのお名前は?」
「はじめまして。アーウェン・ウュルム・デュ・ターランド…です。ターニャ小母様?」
「……まぁ……まぁまぁまぁ!何て賢いの!良い子ね、ラウド。そちらの小さいお嬢様もこちらへいらっしゃい?」
すでにテーブルに着いてたエレノアも手招きすると、呼ばれたくてうずうずしていたらしく、ラリティスの手を借りてすぐに椅子を降りた幼女は、トトトっと軽い足音を立てて駆け寄った。
「あい!エレノアでしゅ!三歳でちゅ!にゃーおばしゃま!」
「あらあらあら……こちらもまた可愛らしいこと!」
「まだ幼くて……無作法をお許しいただければ」
「いいえ!ちゃんとご挨拶できるだけでも、素晴らしいわ!私たちの息子ったら……ねぇ?」
「ああ。長男は六歳で人前に出せるようになったが、次男は礼儀作法より先にふんぞり返ることを覚えよった。三男は挨拶より何より人と関わることを嫌って、『挨拶さえすればあとは逃げればいい』と五歳の時に逃亡癖がついてしまった……」
ヴィーシャムが舌ったらずなエレノアの挨拶を詫びると、グリアース伯爵夫妻は自分の子供たちを引き合いに出して、代わりに賢い賢いとアーウェンとエレノアを褒めてくれる。
更にグリアース伯爵はカラを手招き、ターニャ夫人に対面させた。
「この子が昨晩話した『カラ』という男の子だよ!小さいアーウェンを敬う、心の優しい子じゃ!どう思う?」
「もう……どうもこうも。もう決めてらっしゃるのでしょう?ええ、この子の後見になりたいというのは反対いたしませんわ。でも……まずはあなたのお話を聞かせて、ね?よろしいかしら、ラウドちゃん?この子をお借りしても?」
突然「ちゃん」づけで呼ばれたラウドは思わず噎せ、背を宥められながら頷いた。
だってそれはいずれ取り戻せるはずのものだから──八歳という年齢には程遠いその細い身体は。
「……まぁ……なんて……可哀想に……」
クッと小さく嗚咽を飲み込み、ターニャ夫人は自分の側に来るようにと手招きした。
義父であるラウドの方へアーウェンが顔を向けると、安心させるように頷かれ、従者であるカラの手を少し躊躇いつつも離してそちらに向かう。
王都によくいるひ弱な子供ではなく、野山を駆ける丈夫な男の子三人も産んだ元・町娘であるターニャ夫人は、あり得ないほどに細い少年を優しく抱きしめた。
「初めまして。私はターニャ・クリウム・デュ・グリアース。こちらにいるタークジャ・デルー・デュ・グリアースの妻よ。ターニャ小母様と呼んでくれると嬉しいわ。あなたのお名前は?」
「はじめまして。アーウェン・ウュルム・デュ・ターランド…です。ターニャ小母様?」
「……まぁ……まぁまぁまぁ!何て賢いの!良い子ね、ラウド。そちらの小さいお嬢様もこちらへいらっしゃい?」
すでにテーブルに着いてたエレノアも手招きすると、呼ばれたくてうずうずしていたらしく、ラリティスの手を借りてすぐに椅子を降りた幼女は、トトトっと軽い足音を立てて駆け寄った。
「あい!エレノアでしゅ!三歳でちゅ!にゃーおばしゃま!」
「あらあらあら……こちらもまた可愛らしいこと!」
「まだ幼くて……無作法をお許しいただければ」
「いいえ!ちゃんとご挨拶できるだけでも、素晴らしいわ!私たちの息子ったら……ねぇ?」
「ああ。長男は六歳で人前に出せるようになったが、次男は礼儀作法より先にふんぞり返ることを覚えよった。三男は挨拶より何より人と関わることを嫌って、『挨拶さえすればあとは逃げればいい』と五歳の時に逃亡癖がついてしまった……」
ヴィーシャムが舌ったらずなエレノアの挨拶を詫びると、グリアース伯爵夫妻は自分の子供たちを引き合いに出して、代わりに賢い賢いとアーウェンとエレノアを褒めてくれる。
更にグリアース伯爵はカラを手招き、ターニャ夫人に対面させた。
「この子が昨晩話した『カラ』という男の子だよ!小さいアーウェンを敬う、心の優しい子じゃ!どう思う?」
「もう……どうもこうも。もう決めてらっしゃるのでしょう?ええ、この子の後見になりたいというのは反対いたしませんわ。でも……まずはあなたのお話を聞かせて、ね?よろしいかしら、ラウドちゃん?この子をお借りしても?」
突然「ちゃん」づけで呼ばれたラウドは思わず噎せ、背を宥められながら頷いた。
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