その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

少年は改めて挨拶をする ①

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後光によって陰る幼い主人を目にして、カラは急いで飛び起きた。
本来なら侍従は主人が目を覚ます前に側に侍り、支度のあれこれを手伝ったり、仕事のサポートをするのに、うっかり自分は主人と決めた人と同室で眠り、あまつさえその寝起きにさえ気が付かなかったのだから。
「もももも申し訳ございません!」
恰好がつかないのは承知の上で、寝間着のままカラはアーウェンの前に跪き──けっしてアーウェンはそうしないだろうとわかりつつも──叱責を受ける姿勢を示す。
「……大丈夫。たぶん、僕は今までとはちょっと違うんだと思うけど、たぶん、変わってない……から。その……お着替え、手伝ってくだ……えぇと、手伝って?」
ずっと抜けなかった敬語を言い直すことで封印し、アーウェンは泣きそうな笑顔でそう言った。
言うことで──示したのだ、自分はもう囚われていないことを。


さすがに他の使用人たちは部屋の外ですでに控えており、アーウェンとカラが起きたのを見計らって室内にはいる許可を求めてきた。
「あ……うん、どうぞ」
精一杯胸を張り、偉そうというよりもひっくり返りそうになりながらアーウェンが言うと、ロフェナがきちんと正装で顔を見せてくれる。
「アーウェン様もカラも顔色は良いようですね。ご厚意で浴室を使わせていただけます。先ほど準備をいたしましたので、カラが介添えいたします。どうぞお使いください」
「は、はい!……じゃなくて?えぇと……ありがとう!」
「はい。身支度が整いましたら食堂に案内する者を遣わせますので、どうぞご朝食を皆様と」
「はい!」
けっきょく丁寧なことには変わりなく、アーウェンは元気に返事をした。
ロフェナはアーウェンが今までと変わらずカラと手を繋ぐのを見て頷くと、先に立って浴室へと案内する。
それは主寝室とは別の方角にあり、二部屋あるうちのひとつに湯が満たされていた。
そっとカラにアーウェンと共に湯を使うようにと許可を出し、ロフェナは主人たちにアーウェンが目覚めたことを伝えに行く。
その表情は明るく、心なしか足取りも軽かった。


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