その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

伯爵は知己の妻と邂逅する ③

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いつ帰るかわからないグリアース伯爵の次男を待つというのは非効率であるということは納得してもらえたが、やはりターニャ夫人もこの町で起きている異変を正すために協力してほしいと言われた。
ラウドとしても今すぐにアーウェンを連れて旅立つのは不安があり、二~三日間この館を使わせてもらうことで、互いの利益は一致したとみなす。
しかしターニャ夫人とラウドが話し合っている間、かなり早くこの町に着いたせいか、グリアース伯爵はだいぶ疲れている顔だ。
「……あなたの部下に預けた名前の知らない『秘書』も気になるけれど、今夜はもう休んだ方がいいようね。私たちは主寝室を使わせていただけるということだけど?」
「ええ、大丈夫です。ただ貴方のお気に入りの応接室を、アーウェンとそのお付きの者が休むのに使わせていただいていますが」
「構わないわ。あの部屋は私がひとりになるための部屋だから。ふふ……広いベランダがお気に入りなの。そのアーウェンという子が元気になったら、一緒に夜空を見上げるといいんじゃないかしら?」
「ほう……星か……あいにく私は詳しくないが、あの子についている家庭教師に知識があるか聞いてみます」
「まぁ!家庭教師まで。可愛がっているのねぇ……明日の朝には会えるのかしら?」
「ええ。厨房の方はきっとこちらの使用人と上手くやるでしょう。では、また明日」
お互いに思うところはあっても、それは負の感情ではない。
ラウドにとっては人事を伴う是正だが、グリアース夫妻にとっては成人したとはいえ独り立ちもしていない子供の不始末に対する後処理だ。
ターランド伯爵家は先に進むが、グリアース伯爵家は留まり改悪されたものを元通りに、そしてより良く発展させねばならない問題だ。
それらを、判断力が鈍っている深夜に話し合うべきではない。


そうしてアーウェンが目を覚ました翌朝、ターニャ夫人の自慢のベランダからは美しい朝日と公園の緑が輝き、そしてまだ疲れて眠っているカラを振り返って見る。
不思議なことに今まで見ていた景色がすべてヴェールが掛かっているかのようにぼんやりとしていて、今その曇りが払われて、その目に映る全てがハッキリと認識できている気がした。
「……ん……ウェン…様……?」
自分が寝ていたベッドから降りて少しだけ開いたカーテンから差し込む光に気が付いたのか、カラもゆっくりと目を開けた。
「うん。おはよう、カラ」


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