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第一章 アーウェン幼少期

少年従者は自分の罪を告白する ②

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カラが自分の育った施設を出ようと決めた時、本当は母と妹を連れて出て行きたかったが、圧倒的に金がなかった。

母がいつから娼婦として働き始めたのかはわからないが、自分自身だけでなく子供ふたりを育てるにもあの施設では満足に賃金を払っていないことは、自分が厨房に立つようになってから気が付いた。
だからこそ施設の食堂での下働きを辞めるために職業案内所に行き、はるかに高い給金を払ってくれるという求人紙を引っぺがして、その足でターランド伯爵家の裏口に向かったのである。
わずか一年前──十二歳で、施設の子供たちのために料理をしていたが、食堂では単なる下働きに過ぎなかった少年をジィッと見つめる厨房長の視線に居心地の悪さを覚えたが、ほとんどよそで働いたこともないカラはすぐその場で採用となった。
今思えば、カラ自身も知らなかった何らかの魔力を感じ取り、そのまま保護も兼ねて雇われたらしい。

その夜だった──

何故かカラは自分の職場である施設の食堂の端に座り、まるで客のように料理が来るのを待っていた。
本来ならば自分がいるべき隅は、ここではなくて厨房の洗い物や食材のゴミなどをまとめる裏口に近い場所である。
……ど、どうして……?
「ははっ。忘れたのかい?君は今日、休みだったじゃないか」
 休み……?そう、だっけ……?
「そうそう!さあ、もっと飲みなよ。上手くいって良かったよ。採用されたんだって?おめでとう!」
見慣れない男だった──男──男、だったろうか──顔も覚えていないのに。
その時は気が付かなったが、カラはだいぶ酒を飲まされていた。
しかもずいぶん強い酒だったようだが、その頃からカラの記憶は曖昧になったのである。
しかも何ら病気をしたこともないのに、カラは毎日、毎食、いつの間にか手に入れた丸薬を飲むようになり、それはターランド伯爵邸に入っても続いた。


そうして三ヶ月か四ヶ月経った頃──小さくて細い欠食児のためにスープを作ることになった。
カラが直接作っていたわけではないが、その子供専用のスープの側に立っていたカラは、自分が飲んでいた丸薬を擂り潰した物を混ぜ込んだ。
どうしてそんなことをしたのか、「しなくてはいけない」と思って、その丸薬を休みのたびにくれるその『男』が言っていたのだから、そうしなくてはいけない。
「その子供は、その家にいてはいけない。病気だとわかれば、元いたところに捨てられるから。捨てられる手伝いをすれば、もっと金が入るから」
実際ターランド伯爵家から支払われる給金は破格で、娼婦として身を売る母がもらう金額よりも多かったはずだ。
それよりももっと金が手に入れば──この屋敷にある使用人部屋に一緒に住めなくても、せめて平民街に親子三人で住める部屋を借りられる。

たぶん、そう思ったはず──だ。


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