その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

伯爵は少年侍従の意外な才能を見つける

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案の定、宿屋でもひと悶着が持ち上がっていた。

売春宿も兼ねていたとはいえ、表向きは真っ当な食堂経営をしていた施設出身のカラは、王都での庶民が食べられる食事の量と金額を把握していた。
地方というハンデはあるにせよ、この町は農業だけでなく酪農も盛んで、働き手も他の村から報酬を払って雇うのではなく、家族経営の家がほとんどだ。
新鮮な野菜、卵、肉。
川では魚も獲れるらしく、見たこともない種類の魚を前に料理人たちが店主に詳しく料理法を聞き、何種類かを賄いで試食するためにと購入していたのも見ている。
その金額はとてもまともなもので、宿屋の食堂が提示する金額の一割どころか三分さんぶほどの値段だった。
「……そもそも我々の分だけを特別に購入し、たった今調理したものだとしても、その総額で今提示されている金額で換算した二人前にも満たない。ご夫妻、お子様方、侍女十二名、侍従十名……我々が食事を用意してほしいとお願いしたのはこの人数です。しかもお子様ふたりは、大人の半分もいただいていませんよね?護衛以下の兵、そして使用人たちは皆、この町の八百屋や魚や、直接牧場へ行って食材を購入しました。その金額がこちらです。仕入れ値を考えても、あなたが提示した金額はおかしい。本日から三日間の宿泊料に関しても、教会の孤児院並みの手配しか行われていないにもかかわらず、王都で宿泊できる迎賓館の十名分の宿泊料と変わらない理由を明確にしていただきたい!」
カラの目が燃え上がり、堂々と宿屋の主人をやり込めるのを見て、ラウドはアーウェンの専属侍従より家政を任せた方が適正かとも悩んでしまう。
一方、宿屋の主人は自分の息子よりもはるかに若い少年に論破され、逆切れを起こした。
「なっ、何だって!!そ、そんなに貴族様が偉いのかっ?!こっちは誠心誠意『おもてなし』をしてやってんだ!!泊めてもらってありがてぇって頭下げんのが筋だろうがっ!」
「……筋?筋というのは、真っ当に通してこその筋だろうが!てめぇの手抜きどころかやる気も見せねぇ不味い料理を食ってやったんだ!『お味いかがですか?』ぐらいの低姿勢で来いやぁっ!!こちとら八の歳から調理場立ってんだ!てめぇの料理の腕ぐらい、見ただけでわからぁっ!!埃だらけの湯船に、雑巾掛けもしてねえ足跡だらけの床!シーツは臭うし、カーテンも下げっぱなしで蜘蛛の巣が張ったまんまのベッドで客寝かせる宿屋がどこにある!?……あー、ここにあったなぁ?俺らはターランド伯爵領と王都をこれから何度でも往復するんだぞ?てめえみたいな出来損ない宿に泊まるぐらいなら、旦那様に頼んで、ここの領主様に許可もらって、てめえの家業潰せるぐらいの立派な食堂と宿屋を作ってやらぁ!」
言い募るうちにカラには理想としていたらしい宿屋の建築を口に出し始め、ラウド以下伯爵家関係者は皆感心し、逆に宿屋の主人はその考えを真面目に考え始めたらしいラウドの顔を見て、自分がやったことを思い返すにつれて顔色を悪くして冷や汗をかき始めた。
「ま…ま、ま、まさ……か……」
「ふむ……カラをここに置いていくわけにはいかないが……面白い。今はその暇はないが、領地に戻り次第、国王陛下とこの辺り一帯を治めるグリアース伯爵に面会を求める手紙を出そう。彼とは知己だ。半年後にはまた王都に戻るためにこの地を訪れるから、その時の様子如何でカラの提案を話してみよう」
「あっ!ありがとうござます!!」
さっきまでツルッと口にしていた下町言葉を、ターランド伯爵家に来てから教えてもらった丁寧な話し方に変え、カラはパァッと明るい表情で礼を述べる。
翻って主人どころかおかみさんまで食堂に飛び出してき、ぺこぺことラウドに向かって『ご容赦を!』と叫びながら頭を下げた。


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