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第一章 アーウェン幼少期
少年は文字と言葉を結ぶ ②
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アーウェンの吸収具合は凄まじかった。
まさしく『スポンジが水を吸うが如く』という言葉が、これほどピッタリとあてはまる生徒をクレファーは他に知らない。
言葉によっては同じ文字が必要になってしまうため、まずは重ならない言葉を教えていったのだが、まさしく喉が渇いた子供が飽きずに水を飲むように、アーウェンは文字を、限られた言葉を覚えていった。
そのため、昼休憩のために隊が停まった時には、クレファーと共に五枚ずつ同じ文字をひと文字ずつ書く手伝いを始め、その横では何故かエレノアが義兄の書いた紙に花や蝶などの簡単な絵を書き足していく。
ただの白い紙に文字だけだったのがだいぶ賑やかになり、小文字だけではあるがすべて六枚ずつ並べて使えるようになった。
もっとも馬車の中ではまた酔ってはいけないということで、ロフェナが馬車の壁に貼ったり剥がせたりする魔術を紙に施してくれ、クレファーがずっと手で持つ必要がなくなったのは、今後の学習にも一役買うだろう。
「……次に立ち寄る町で馬車を一台求めよう。アーウェンの学習室として活用できるよう、補強などは皆に任せる」
「きっと我が伯爵家の中でもかなり居心地の良いものができるやもしれません。皆、アーウェン様が賢く学ばれることを喜んでおりますから」
まるで玩具を買い与えるかのようにラウドがさらりと決定し、ロフェナも反対しないのをクレファーは呆然と聞いていた。
買い物の基準が違う──
これが平民と貴族の違いかと、今まで建前上は『貴族も平民も身分の差なく平等』という市に住んでいたことによる物知らずを、まざまざと見せつけられた。
その言葉通りに、アーウェン専用の馬車が購入された。
内装などは主人や婦人用の物と比べるとずっと質素で、厨房用や警護兵たちが使っている者と変わらない。
ただし足回りの補強具合が凄く、異国から伝わったという『ばね』というものが車輪と車体の間に取りつけられた。
構造はこの町の馬車製造屋しかわからないらしく、壊れてしまったらまた戻ってくるしかない。
「では壊れなければいいのでしょう?」
そうロフェナはが言うと、次々と身体強化魔術ができる者が手を上げ、試しにとその『ばね』という部分を強化してしまった。
呆れるほどのアーウェン至上主義と言えなくもないが本人にその事実を告げる者はひとりもおらず、その溺愛は本当の親子であれば行き過ぎかもしれないが、今の彼にはどんなに愛情が注がれても溢れるには程遠いのではないかとクレファーには感じられるほど、アーウェンは自分に向けられる好意への反応は薄い。
それは感謝していないというのではなく、自分ではない他の人間に向けられるのが当たり前で、望むことすら諦めてしまったせいなのだろう。
まさしく『スポンジが水を吸うが如く』という言葉が、これほどピッタリとあてはまる生徒をクレファーは他に知らない。
言葉によっては同じ文字が必要になってしまうため、まずは重ならない言葉を教えていったのだが、まさしく喉が渇いた子供が飽きずに水を飲むように、アーウェンは文字を、限られた言葉を覚えていった。
そのため、昼休憩のために隊が停まった時には、クレファーと共に五枚ずつ同じ文字をひと文字ずつ書く手伝いを始め、その横では何故かエレノアが義兄の書いた紙に花や蝶などの簡単な絵を書き足していく。
ただの白い紙に文字だけだったのがだいぶ賑やかになり、小文字だけではあるがすべて六枚ずつ並べて使えるようになった。
もっとも馬車の中ではまた酔ってはいけないということで、ロフェナが馬車の壁に貼ったり剥がせたりする魔術を紙に施してくれ、クレファーがずっと手で持つ必要がなくなったのは、今後の学習にも一役買うだろう。
「……次に立ち寄る町で馬車を一台求めよう。アーウェンの学習室として活用できるよう、補強などは皆に任せる」
「きっと我が伯爵家の中でもかなり居心地の良いものができるやもしれません。皆、アーウェン様が賢く学ばれることを喜んでおりますから」
まるで玩具を買い与えるかのようにラウドがさらりと決定し、ロフェナも反対しないのをクレファーは呆然と聞いていた。
買い物の基準が違う──
これが平民と貴族の違いかと、今まで建前上は『貴族も平民も身分の差なく平等』という市に住んでいたことによる物知らずを、まざまざと見せつけられた。
その言葉通りに、アーウェン専用の馬車が購入された。
内装などは主人や婦人用の物と比べるとずっと質素で、厨房用や警護兵たちが使っている者と変わらない。
ただし足回りの補強具合が凄く、異国から伝わったという『ばね』というものが車輪と車体の間に取りつけられた。
構造はこの町の馬車製造屋しかわからないらしく、壊れてしまったらまた戻ってくるしかない。
「では壊れなければいいのでしょう?」
そうロフェナはが言うと、次々と身体強化魔術ができる者が手を上げ、試しにとその『ばね』という部分を強化してしまった。
呆れるほどのアーウェン至上主義と言えなくもないが本人にその事実を告げる者はひとりもおらず、その溺愛は本当の親子であれば行き過ぎかもしれないが、今の彼にはどんなに愛情が注がれても溢れるには程遠いのではないかとクレファーには感じられるほど、アーウェンは自分に向けられる好意への反応は薄い。
それは感謝していないというのではなく、自分ではない他の人間に向けられるのが当たり前で、望むことすら諦めてしまったせいなのだろう。
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