その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
168 / 417
第一章 アーウェン幼少期

少年は初めて勉強をする ②

しおりを挟む
ひんやりと薄い冷気の膜に包まれた小さめの天幕の中で折り畳み型のテーブルを出してもらい、エレノアはラリティスと塗り絵をしていた。
まずは太めの線で内枠をなぞられるのをお手本とし、そのさらに内側を同じ色で塗るように渡されたクレヨンを使う幼女がほんのわずかずつ丁寧に塗っていくのを、若い乳母は微笑みながら見守る。
「ラリティス、アーウェン様とクレファー先生をご案内しました。ご挨拶を」
ロフェナにそう声を掛けられ、ラリティスはいったん手を置くようにとエレノアに話しかけた。
本来ならば自分のやりたいことの方を優先させる年齢であるはずの伯爵令嬢は言われた通りに頷き、パタンとクレヨンを置いて席を立つ。
「ちぇんちぇい!えれのあれしゅ。はじめまちて!」
身を屈めて何か囁かれた令嬢は、短い指でふわっとした幼児用のドレスの裾を摘まみ、膝を少し折って淑女の礼であるカテーシーの真似を可愛らしく行った。
元気の良すぎる声と幼すぎるが故の屈託のない笑顔が、まだまだ淑女レディへの道のりは遠いと思い出させてくれるのだが。
「初めまして、エレノアお嬢様。私はチュラン・グラウエス家が長男でクレファーと申します。お兄様とご一緒にお勉強を致しませんか?」
「おべんちょう?」
「ええ。それと呼び慣れないでしょうから……そうですね、『ファー先生』とでもお呼びください。お嬢様のことは『エレノア様』とお呼びしても?」
「あいっ!」
先ほどと同じように元気良く、しかし今まで教えてきた子供たちのようにピンと右手を上にあげての返事に、思わずクレファーは笑ってしまった。


けっきょくエレノアだけでなくアーウェンにも『ファー先生』という呼び方をするようにと言い、まず初めに行ったのは、この場にいる皆でテーブルと椅子を片付けることだった。
小さいながらも自分が座っていた椅子を持って運ぼうとしているのを見て、アーウェンもぎこちなく同じ動きをする。
一歩ずつエレノアが進むのを、アーウェンもぴょこんという感じで後ろをついていく。
その様子を見て、クレファーはまるで雛鳥がきょうだいの後をついていくようだと思った。
「……なるほど。彼は今、様々な学習をしているのだね?」
「ええ。本来ならば両親や兄たちから教わるような『当たり前』すら、身につけていらっしゃらない。逆に着替えや食器の上げ下げ、掃除など使用人が行う一切を歩けるようになった瞬間からできることを期待されていたようです」
「なっ……」
生家が平民とほぼ変わらない男爵家だとは聞いたが、現実とは思えないロフェナの言葉に、アーウェンをまじまじと見直す。
確かにアーウェンは義妹の真似をしているのだろうが、それ以上に従僕のように後ろに控えるようにしている様子が伺えた。
しかもその後ろにカラが控え、さらにその後ろにはラリティスが──可愛らしいと言えば可愛らしいが、なぜそのような隊列じみた行動をとっているのかを知れば、アーウェンが『貴族子息』として正常ではないことがわかる。

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

処理中です...