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第一章 アーウェン幼少期
少年は『教師』と対面する ②
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ヴィーシャムとパージェがそのような会話を交わしている間、シェイラはニィザに向かってロフェナのことをあれこれと尋ねていた。
しかし返ってくるのは、当たり障りなく上級使用人である執事たちのことはわからないという言葉である。
「えぇ~?でもでも!同じお邸にいらっしゃったなら、その、『この人が良い』みたいな話ってあるんじゃないんですかぁ?」
「そうですねぇ……侍女の方たちや執事様たちであればいつもお話をされているから、想い合う方もいらっしゃるでしょうけど……私たちのように裏仕事をする者たちは、料理長や下女頭様から直接お仕事を振り分けられるから、ほとんどお話することはないのよ」
にっこり笑ってニィザは誤魔化したが、実際のところロフェナにはもうラリティスという恋人がおり、一応は婚約の約束を交わしていることは知っている。
だからといってまだ信用が確立しているというわけでも、ターランド伯爵家の料理人として雇われるわけでもない少女に対し、内情を漏らすような愚かな真似はしない。
しかもロフェナがシェイラに対して、拒否も拒絶も、事実を告げることもしていないのであれば、それは彼自身がこの少女に心を傾けるつもりがないという意思表示である。
「……なんだぁ。やっぱりお貴族様って、使用人に対して差別的なんですねぇ~」
「え?」
ターランド伯爵家でももちろん、主人家族と上級使用人、そして下級使用人が関わることに気を付けているが、差別すると言う意味ではない。
何を期待していたのかわからないが、シェイラの一方的な決めつけの言葉に、思わずニィザは眉を顰めた。
「あっ!いえっ!お給金はいいんでしょうけど……やっぱり私は自分の店を持つ方がいいなぁ~って……」
「……そうね。あなたはその方がいいと思うわ?領地に着いたら、どんなお店にしたいの?」
失言に気付かないのは、きっとまだ人生経験が足りないからに過ぎない。
自分が同じぐらいの歳頃はどうだったろうかと思い出そうとしたが、ニィザ自身はもうその頃にはターランド伯爵邸で礼儀作法も含めた使用人教育を施されていたことに思い当たり、シェイラの言ったことを追求するよりも話を逸らすことにした。
思惑に簡単に乗ったシェイラは、嬉しそうに生まれ育った市ではできなかった自分なりの内装や、父がやらなかったオープンキッチンタイプの調理場など、理想とする店作りを語ってくれる。
しかし最後に──
「ねっ!そこに燕尾服を着たウェイターさんがいたら、とっても流行ると思いません?その……ロフェナさんとか」
「……そ、そうね。まぁ……給仕をするのに燕尾服では仰々しすぎると思うけど」
ニィザの口の端がピクリと引き攣ったが、シェイラはロフェナをイメージさせるウェイターが自分に向かって盆を持ち、どういうふうに給仕してくれたら嬉しいかという想像を途切れることなく語り続けた。
野営地は遮る物なく開けていたが、一応は主人たちの馬車を中心として護衛兵の馬車や馬たちが取り囲み、さらにその外側に結界用の魔術が展開される。
しばらくすると、ロフェナたちの馬車がようやく合流した。
「兄さん!!」
「クレファー!」
「ああ、よかった……」
真っ先にシェイラが駆け寄り、料理人たちと調理に入っていたイシューは遠くから叫ぶ。
息子の無事を知ったパージェがよろけると、サッと侍女のひとりが抱きかかえてくれ、そのまま用意された携帯用の椅子に座らせてくれた。
しかし返ってくるのは、当たり障りなく上級使用人である執事たちのことはわからないという言葉である。
「えぇ~?でもでも!同じお邸にいらっしゃったなら、その、『この人が良い』みたいな話ってあるんじゃないんですかぁ?」
「そうですねぇ……侍女の方たちや執事様たちであればいつもお話をされているから、想い合う方もいらっしゃるでしょうけど……私たちのように裏仕事をする者たちは、料理長や下女頭様から直接お仕事を振り分けられるから、ほとんどお話することはないのよ」
にっこり笑ってニィザは誤魔化したが、実際のところロフェナにはもうラリティスという恋人がおり、一応は婚約の約束を交わしていることは知っている。
だからといってまだ信用が確立しているというわけでも、ターランド伯爵家の料理人として雇われるわけでもない少女に対し、内情を漏らすような愚かな真似はしない。
しかもロフェナがシェイラに対して、拒否も拒絶も、事実を告げることもしていないのであれば、それは彼自身がこの少女に心を傾けるつもりがないという意思表示である。
「……なんだぁ。やっぱりお貴族様って、使用人に対して差別的なんですねぇ~」
「え?」
ターランド伯爵家でももちろん、主人家族と上級使用人、そして下級使用人が関わることに気を付けているが、差別すると言う意味ではない。
何を期待していたのかわからないが、シェイラの一方的な決めつけの言葉に、思わずニィザは眉を顰めた。
「あっ!いえっ!お給金はいいんでしょうけど……やっぱり私は自分の店を持つ方がいいなぁ~って……」
「……そうね。あなたはその方がいいと思うわ?領地に着いたら、どんなお店にしたいの?」
失言に気付かないのは、きっとまだ人生経験が足りないからに過ぎない。
自分が同じぐらいの歳頃はどうだったろうかと思い出そうとしたが、ニィザ自身はもうその頃にはターランド伯爵邸で礼儀作法も含めた使用人教育を施されていたことに思い当たり、シェイラの言ったことを追求するよりも話を逸らすことにした。
思惑に簡単に乗ったシェイラは、嬉しそうに生まれ育った市ではできなかった自分なりの内装や、父がやらなかったオープンキッチンタイプの調理場など、理想とする店作りを語ってくれる。
しかし最後に──
「ねっ!そこに燕尾服を着たウェイターさんがいたら、とっても流行ると思いません?その……ロフェナさんとか」
「……そ、そうね。まぁ……給仕をするのに燕尾服では仰々しすぎると思うけど」
ニィザの口の端がピクリと引き攣ったが、シェイラはロフェナをイメージさせるウェイターが自分に向かって盆を持ち、どういうふうに給仕してくれたら嬉しいかという想像を途切れることなく語り続けた。
野営地は遮る物なく開けていたが、一応は主人たちの馬車を中心として護衛兵の馬車や馬たちが取り囲み、さらにその外側に結界用の魔術が展開される。
しばらくすると、ロフェナたちの馬車がようやく合流した。
「兄さん!!」
「クレファー!」
「ああ、よかった……」
真っ先にシェイラが駆け寄り、料理人たちと調理に入っていたイシューは遠くから叫ぶ。
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