その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

文字の大きさ
157 / 437
第一章 アーウェン幼少期

伯爵家は新たな家族を迎えて発つ ①

しおりを挟む
店にラウドとヴィーシャムが近付くと、付近に潜んでいた者がそっと寄り添い、自宅側の脇道へと案内する。
他人に気付かれないように防音や侵入妨害の魔術が掛かっているが、ターランドの者だけが知る開錠術でわずかに隙間を開け、主人たちを通した。
「ほう……」
ラウドが感心するほど、自宅は備え付けだったという家具以外はすべて梱包され、すでに馬車に積み込まれている。
「この様子ではあまり待たずに合流できそうだな」
「旦那様!」
店主と妻が揃って駆け寄り、深々と頭を下げる。
「あ…ありがとう、ございます……本当に……」
「息子も昨日の帰宅後に執事の坊ちゃんが説明してくれて……ああ、あの坊ちゃんも頭がいいですねぇ。息子がとても嬉しそうに話しこんでいましたよ!護衛の方も皆……あっという間に片してくれて!」
「ふふ……あら。我が家の者がお役に立てて良かったですわ。すぐにでも出発できそうですわね?」
「あ、あの……」
ヴィーシャムが店主夫妻のそれぞれの言葉に微笑むと、その声を聞きつけたのか、土産物と一緒に飾ってあった家族写真に写っていた背の高い青年がこちらへやってきた。
「あら?あなた……」
「うむ。君がクレファーくん……かな?」
「あ、は、はい。私がクレファーです。あの……本当に、私をご子息の家庭教師として雇っていただける…んですか?」
ジッとラウドが目を凝らし、クレファーという青年を検分する。
「ふむ……持っているのは四元素ではなく、無属性……なるほど。君ならぴったりだ!」
クレファー青年はターランド家の執事たちがほとんどそうであるような無属性で無機物などに対して有効な魔力を持っていると判断し、ラウドも微笑んで手を差し出した。
「私たちの新しい息子・・・・・は八歳になるがいっさい教育を受けていない。真っ新な状態から初等教育、中等、できれば高等までを約二年間の時間の許す限り教えてほしい」
「に、二年……?」
「ああ、それ以降は他領へ……辺境伯領へ預ける予定なのだ。できうる限りで構わない。ご両親や我が家の執事から聞いているかと思うが、その後は我が領都にて君のご母堂所縁ゆかりのガブス共和国語の習得も含めた学習塾を開塾してほしい」
男にしてはあまり苦労をしていなさそうな柔らかい手をガッシリと握りながらラウドが説明すると、ようやく実感したのかクレファー青年はラウドから母の顔へと視線を泳がせ、逡巡するような表情を浮かべた。
「そ…れは、構いません……むしろ、この地を離れられるなら……ですが、生徒が……」
「いいじゃないか!」
息子よりもよほど母親の方がスッキリとした表情で、きっぱりと言い切る。
「元々あんたが学校で優秀だったからって教えてくれって言ってたのに。うちの店のことやあんたのお祖母ちゃんがガブス出身だって知った途端に、手のひら返したように「お金がないから月謝を待ってくれ」だなんて……ここ半年、あんたまともに月謝をもらってなかったじゃないか!」
「そ、それは……思ったように教えた成果が出ないからって……」
「ハンッ!だからって、あんたと同い年の子はキチンと月謝をもらっているじゃないのさ?知らないなんて思うんじゃないよ!ここいら辺の家のやつがどんな仕事してて、どれくらいのお給金で生活してるのか、母さんたちの耳はただの風穴じゃないんだよ?!」
「か、母さん……」
まさか母親にそんなことまで知られているとは思わなかったのか、クレファー青年は冷や汗をかき始めた。

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

処理中です...