その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
148 / 416
第一章 アーウェン幼少期

義兄妹は行進に目を奪われる ③

しおりを挟む
ようやく辿り着いた広場にいるのは大半が子供ばかりで、大人ばかりが二十人ほどのターランド伯爵一行は異色と言えば異色だった。
最初は見慣れない団体に視線をやる者も多かったが、ゾロゾロと憲兵の音楽隊が出てきて音合わせを始めると、子供たちがワァッと歓声を上げた。
ドドーンッ!と大太鼓が鳴らされるといつの間にか広場の端に整列していた憲兵隊がザッザッと足音高く行進を始め、賑やかな音楽が始まる。
「今日は『青い空、白い雲、大砲を鳴らせ』だっけ?」
「そうそう!ちゃんと合わせろよ!サンッ、ニィッ!」
子供合唱団だろうか、彼らもいつの間にかきちんと整列し、音楽に合わせて歌を歌い始めた。
どうやらこれは憲兵たちにも知らされていなかったらしく、指揮者を始め、音楽隊も行進する憲兵たちも一瞬驚いた顔をしたが、先ほどよりも張り切ってそれぞれ演奏や行進を続ける。
「ぜんたーい!止まれっ!!」
ザッ、ザッ、ザッ!
二隊が向き合い、敬礼し、クロスするように片側は憲兵控えの門へ向かい、もう片方は最初に行進してきた方へ身体を向けて行進する。
広場の端と端に離れるとまた新しい音楽が始まり、今度は憲兵隊隊歌が高らかに歌われた。
大人たちの野太い声に子供たちの軽やかな声がハーモニーとなったが、最後の方でひとりの憲兵が広場の端から女性の手を引いて、人のいない広場の真ん中へと歩いて立ち止まる。
「……子供合唱団に協力してもらったんだ。僕はやっと憲兵隊の交代式にも参加できるようになった。今日初めての憲兵交代式に参加できた記念に、僕に君の手を取って一生を共にする喜びを与えてもらえないだろうか?」
いわゆる公開プロポーズである。
予定にない行動に憲兵隊長は苦笑いしながらも咎めようとはせず、逆に静かに演奏を続けるようにと指揮者に指示を出した。
「………はい。あ、ありが……とっ……で、も……私っ……」
「君が孤児院出身だとしても、君がここにいるということは、君にはご両親がいたんだ。今日ここにいる人たちが皆、君の親代わりだ!君のその返事だけで、ここにいる人たちはきっと僕たちの婚姻を許可してくれるよ」
「許可します!!」
誰かが合図をしたわけでもないのにその声は揃って若い二人を祝福し、広場中に歓喜の声が溢れる。
エレノアはキラキラとした目で母と乳母を交互に見て、キャーキャーと声を上げて一緒に喜んでいるが、アーウェンには今何が起きているのかがよくわからない。
「と……父、様……あの……あの人たち、は……?」
「ん?あ…ああ……うーむ……つまり……恋人が婚姻の申し込みをして、それを受け入れて……」
「あなたったら……アーウェンには難しいですわよ。『一緒のお家で暮らしましょう』と男の人が言って、『いいですよ』と女の人が言ったの」
「いっしょに……」
「ええ、一緒に」
「僕が、ノアといっしょにいれる、みたいに……?」
「えっ……ええ……それとはちょっと違うけど……でも、似てるかしら?もう少し大きくなったら、きっとちゃんとわかるわ」
「お前もちゃんと説明できないじゃないか……」
「だってぇ……」
若いふたりを祝うムードにあてられたのか、ラウドとヴィーシャムの間も何だかいつもより甘い。
アーウェンにはその変化がなぜ起こったのかわからず、憲兵たちにもみくちゃにされる若い兵と、女性が友人たちに囲まれて花で作られた冠を被せてもらいながら泣き笑いしているのを、ただ不思議そうに見つめるだけだった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

処理中です...