その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

子爵令息は格の違いを見せつける ①

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薄い殺気が消えたのを感じ取ったのか、まずエレノアが目を覚まし、ついでアーウェンも伸びをしてボンヤリと辺りを見回す。
その動作がとても自然で、ロフェナは思わず笑みだけでなくじんわりと涙も浮かべそうになって、そっと顔を逸らした。
執事としては父であるバラットに及ばないためかしっかりとその表情をラウドに見られていたのだが、主人はあえて指摘せず、ロフェナ自身も気が付かない。
「……いい、匂い………」
どうやっても客と店主やその妻との会話が聞こえないことに苛立ちを隠さない女店員が、アーウェンとエレノアの前に陶器のカップをやや乱暴に置きながらジロリと睨み下ろし、ラウドやロフェナには愛想よく笑みを見せて、女性たちを全部無視して立ち去るという芸当を見せてくれた。
「……とても面白い女性ね?」
「ああ。今の芸にはたっぷりと弾もう。向こう三ヶ月ほどは遊んで暮らせる程度にはな」
金に物を言わせるような行いだが、ターランド伯爵家が使用人ひとりに対して給与三か月分の退職金など、痛手にもならない。
むしろその大金でしばらく遊び暮らしてもらって、自分たちはさっさと領地に帰る方が重要だ。
「……ふむ。いっそのこと、明日の店休日だけでなく、明後日も貸し切りということにして、あの女には三日後に店を訪れるように仕向けるか?」
「あら、いい考え。それならば、彼女たちの息子さんの荷造りも完全に終わるでしょう」
ホホホ…とヴィーシャムが同意した時、乱暴に店の扉が開いて誰かが押し入ろうとした。


「オイッ!俺が来たぞ!酒を持って……」
勢いよく飛び込んできた身形みなりのいい男は、ギョッとして足と口を止め、満員の店内を見回した。
ラウドたちが入ってくるまで無人だったテーブルはすべて埋まり、そのラウドやヴィーシャム、子供たち、ラリティスを含む三人の侍女と執事のロフェナ以外は皆帯刀しているうえに、体つきもかなりガッシリしている者たちばかりが十五人ほど。
「なっ…何だっ?!てめぇたちはっ!!」
怒鳴りつけた男の背中に同じような勢いで入ってこようとした男たちが次々とぶつかり、踏ん張りがきかなかったのか、よろけながら睨みつけてくる。
「……何と言われても。客ですが」
「きゃ、客ぅっ?!」
慌てて店の奥に目をやり、厨房の扉の隙間から顔を出した女店員を睨みつけた男は、そのまま応答したロフェナに視線を動かす。
年齢的に見て、おそらく十八歳のロフェナよりも四~五歳ほど上か──身分的にも自分の方が上だと判断したのか、横にいるのに一瞥もくれないラウドに向かって突っかかってきた。
「おいっ!オッサン!!これからこの店は俺たちの貸し切りだぁっ!ヨソモンはとっとと出て行けぇ!!」
「……フム?」
「お断りいたします。私たちもまだ食事中ですし、現在貸し切りを行っているのは我々。申し訳ありませんが、他の店を当たってください」
「なっ……」
ラウドはあくまで直接返事をせず、ロフェナが主の言葉を代弁すると、あからさまな挑発に安く乗ってきた。
「おっ、お前っ!お前っ!お前えぇぇ……」
「お前らっ!!この人をどなただと思っているんだっ?!」
「……知りません。我々は『ヨソモン』なので」
にっこりと笑って見せると、今度はちゃんとロフェナの方に向かって男たちは数を頼みに騒ぎ出した。
「こっ、このお方はなぁっ!現市長、ヒューマット子爵様のご子息、ドラン・アガス様!だぞっ!!」
「そうですか」
「そっ……そう……って……」
歯牙にもかけないのはロフェナ自身も子爵家の息子であり、身分的には爵位をいただいていない以上同位だ。
お互いが顔を知らないのは、単にロフェナはターランド領と王都のみ行き来をし、勉学においては父と同じく王都貴族学院に所属していたが、このドランという男はこの市で習い収めたからだろう。
「申し訳ありませんが、私もダレニア子爵家が一子、ロフェナ・バリーと申します。面識のないあなたに頭を下げる謂われはありません」
むしろ同爵地位でいえば、地方にしか主宅がなく領地もないヒューマット子爵家と、ターランド伯爵家を主君と仰ぎ領地と王都への同行を許されているダレニア子爵の方が、格が高いのである。
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