その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

少年は見たことのない道に立つ ③

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そしてラリティスが十六歳と聞いて、カラはさらに驚いた。
確かに乳母になるにはかなり若い女性だとは思っていたが、自分より三歳しか年上でしかない。
アーウェンの元の兄のうちの一人と同い年だと思い出すと、ますます複雑さが増してしまう。
「あらぁ?どうしたの?」
「あ……いえ……」
アーウェン自身に直接聞いたわけではないけれど、思い返せばラリティスに対しての態度はどこか気恥ずかしげで、人見知りという部分もあっただろうが『年上のお姉さん』に対する甘酸っぱい気持ちがないとは言い切れない。
「うふふ…使用人同士の恋愛が禁止されているわけではないけれど、ラリティスもロフェナさんもお互い一途だからね!横恋慕はダメよぉ?」
「あら!じゃあ、私の妹なんかどうかしら?ラリティスと同い年よ?カラより少し年上だけど、ターランド領の本邸のある市からちょっと離れた町に住んでいるけど、パン屋の看板娘よ!可愛いんだから!」
「あらあらあら…それなら私の従妹を紹介するわ!」
カラが驚いて否定の首振りをした途端、侍女たちが次々と『恋人候補』を挙げてきて、別の意味で青くなった。
侍女たちがそんなことを言うのには、むろん揶揄う意味もあるのだが、カラ自身が呪われていたことを厭う気持ちがないという意志表示でもある。


エレノアがラリティスとアーウェンとそれぞれ手を繋いでラウドが使う部屋に入ると、おやつというよりは軽食が子供たちふたり分だけ用意されており、父も母も外出の支度が出来ていることに少し驚いた。
「やあ。ようやく起きたな、お寝坊義兄妹きょうだいめ」
「あなた……さあ、早くおあがりなさい」
「あい!」
エレノアは嬉しそうにパッと両手を離すとヴィーシャムの傍に走り寄り、隣に座るのももどかしいようにひとつ目のサンドイッチに手を伸ばす。
ラウドは愛おしそうに妻と娘を見つめていたが、取り残されて部屋の扉の前で立ったままのアーウェンに、自分の方へ来るようにと合図した。
カラがいない──今更ながらアーウェンはそのことに気が付いて狼狽えたような表情を浮かべたが、代わりにそばにいたラリティスがそっとその小さな背中に手を添えて笑いかけると、ゆっくりと義父の方へと近付き、エレノアよりはやや落ち着いて目の前に置かれた紅茶を飲む。
「さて。ルアン伯爵のところではアーウェンはエレノアと一緒に出掛けることができなかったからな。本当は十日間ほどこの市に滞在したい所ではあるが、今回は領地に早く到着するため、休養と補給を兼ねて三日ほどで発つ予定だ」
「とおか……みっか……」
聞き慣れない言い回しにアーウェンがキョトンと見上げると、ラウドが優しく教える。
「十日とは九回この宿の部屋で泊まることだよ。三日とは今日と明日ここに泊まり、その次の朝に出発する……やはり、簡単な数ぐらいは理解させておいた方がいいかな?」
「そうね。まずは市長へご挨拶へまいりましょう。その後で、旅の間にアーウェンやノアにとっていい物を買いに行きませんこと?」
「そうだな……うん、そうだな!」
妻の提案にやや考え込んでいたが、ラウドは何か閃いたかのように顔を上げて突然明るい笑顔を浮かべると、アーウェンがすぐに食べられそうなものをいくつか見繕って目の前に置いた。
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