その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

少年は思い出した過去を語る ③

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「……何ということだ」
リグレやエレノアの成長に関わってこなかったことを後悔し、家庭環境に恵まれなかったアーウェンに関しては、できる限り手を貸そうと思っていたのに──
ラウドはまた何かを間違えたことを自覚し、新たな後悔を抱える。
けれどもそれを否定したのは、アーウェンの傍にあったロフェナであった。
「いいえ……このことに関しては、アーウェン様の思い込みをどうしたら取り除けるかと、奥様も悩んでおられました。お傍につかせていただいておりました私だけでなく、お嬢様の乳母ですらアーウェン様の『お嬢様の物である』というお気持ちを正せなかったのでございます」
父と執事が揃って頭を抱える様子に、アーウェンはキョトンとした目で交互に見るが、改めて包みを開けて見るようにと促され、今度は躊躇いなく嬉しそうに飾り紐を解きだす。
今までとは違うその様子にロフェナの顔が明るくなり、ついでラウドも何かしらの変化がアーウェンにあったことに気付いた。
「……やはり、ルアン伯爵夫人にいただいた安眠の薬草は、カラやエレノアお嬢様のスープと共に、アーウェン様を何かしら良いようになさったみたいですね」
「ふん……だが、この報告書を見れば、やはり『薬学』というものは好かんな……ジェンがかなり熱心に研究していたのは知っているから、それは信用できるが……その、アーウェンの…サウラス男爵家の長男が服用していた丸薬というのは、手に入らないのか?」
「ハッ……現在、王都と領地と両方で『耳』が探っているのですが、サウラス男爵がどこから手に入れているのか、必ず『必要な数』しか持ち歩かないという報告があり、入手がいまだ難しいと」
「出所がわからず……しかも持っている時は数に齟齬がないよう、予備的な物も持たず……村という小さな土地では余所者はなかなか信用されぬしな……」
その怪しげな『丸薬』さえ手に入れば、ルアン伯爵夫人の下にすぐにでも送り、成分などを調査してもらえるようにふたたび伝令を出すことを命じる。
なかなか困難のようではあるが──
アーウェンはふたりの話を聞くことなく、ジェナリー夫人からもらったぬいぐるみを抱えて、いつのまにか寝てしまっていた。
何というか──目も鼻も口もないのっぺらぼうの小動物型なのだが、アーウェンは気味悪がることなく、何かいい香りのするそれに顔を埋めるようにしている。
「……こちらにお手紙があります」
「うん?」
アーウェンの手から滑り落ちたらしい紙を拾い上げ、ロフェナは主人に渡す。
まだ文字の読めないアーウェンにとっては、その紙は何か綺麗な模様のようにしか見えていなかったのかもしれず、ラウドに渡そうとも思わなかったのかもしれない。
「ふむ……ほぅ……これは元々目鼻を付けておらず、技量があればボタンや刺繍をしたり、子供であれば絵具や『クレヨン』という絵具粉を蜜蝋などで固めた…これだな、こういった物で描くとよいと書いてある。また服の内側には匂い袋を入れる場所があるので、気分によって安眠の薬草を入れたり、香水を沁みこませた布を入れてもいいらしい。取り替える際には洗って匂いを消し……面倒だな。後でヴィーシャムにも見せれば、私よりよく手配してくれるだろう」
「旦那様……」
アーウェンとは違った意味で子供時代に玩具で遊ぶということをしていなかったため、女性ならでは贈り物に困惑し、すでに妻に丸投げしようとしている主人の言葉を聞いたロフェナは溜め息をついた。
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