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第一章 アーウェン幼少期

少年は思い出すことを受け入れる ②

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王都から離れれば離れるほど、高位貴族の領地となる。
これは低位貴族が王都に近ければ、万が一領地経営が破綻したとしても王家で簡単に召し上げられるという利点があり、逆に辺境に近かったり王都から距離があるということは『高位貴族の中でもかなり裕福で経営上手な財産持ちである』として、王家にとってかなり高額な納税が見込めるのだ。
自分たちをあまり便利に見られることをいけ好かないと思う気持ちはあるが、『国家』というものに所属する以上、爵位を授ける権利のある者と敵対する意思はない。
だがそんな難しい政治的講釈を垂れるつもりはなく──いずれは領地内での勉強で、教師から学ぶことになるであろう──ラウドはこの先の公爵領にある比較的大きな市の特産などをアーウェンに教えることで満足する。
「ここはまだ気候が穏やかで、春も夏もあまり変化がないな。そのおかげで美味しい果物がたくさん食べられる。特に今はさっぱりした甘さの物が多い」
「くだ…もの……」
アーウェンの記憶にある『果物』はほとんど動物たちが口にしないほど酸味の強い野生種ばかりで、ラウドが言う『甘い果物』がどんな物か想像がつかない。
王都の伯爵邸でももちろん新鮮な果物がなかったわけではないが、消化の追いつかないアーウェンのためにはどちらかと言うと煮崩した甘露煮を出されることが多く、この旅でも保存食として薄く切られ干された果物を齧るのが精一杯である。
「ああ。もうそろそろアーウェンも煮た物ばかりではなく、瑞々しく柔らかい物ならばきっと美味しく食べられるだろう。エレノアも領地に戻るのは久しぶりだし、以前はまだ赤ん坊だったからアーウェンと同じ物を初めて食べるからなぁ……ふたりともどんな顔をするかなぁ~。父は楽しみだぞ~♪」
「……おいしい?」
「ふっふっふっ……食べてみてのお楽しみだな。美味しいけどな~」
「旦那様……」
何か企んでいるようなその顔を見てロフェナが呆れたように注意したが、ラウドはウキウキとした態度のままである。

だがしばらくするとその雰囲気を保つのが難しくなって、ラウドは真面目な顔でアーウェンを見つめた。
「……お前に話しておかなくてはならない」
「…はい?」
義父の纏う気配が変わったことを訝しく思いながら、アーウェンもできるだけ真面目だと自分で思う顔で、義父を見つめ返す。
「ログナスおじさんの町で、おじさんが突然泣き出したことを覚えているね?」
「……はい」
「あまり格好の良いものではなかったかもしれないが、あれはルアン伯爵当主としてアーウェンに対しての謝罪だ」
「しゃざい……」
「お前がちゃんとログナスおじさんを許してあげたのはわかっているが、それでもおじさんも、そしてこの父も、アーウェンに対してひとりの伯爵が頭を下げる原因となったことについて、小さな頃のお前に関わった人間を許すことはない」
「……よく、わかりません」
そうだろう──アーウェンは習わされたまま土下座をし、頬を抓り、下卑た笑みを浮かべたことを「遊んでもらった」と歪んで記憶しているのだから。

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