103 / 411
第一章 アーウェン幼少期
伯爵は友人を嗜める ③
しおりを挟む
ログナスがラウドを案内して戻った本邸では、豪華な食事が用意されていた。
「こっ、このような時に……」
「えっ、いえっ…だ、旦那様……こ、これはターランド伯爵閣下が……」
この町だけでなく、ルアン伯爵領の特産品が使われた宴会料理を前にして、ログナスは怒りを向ける矛先を一瞬見失った。
「とにかく席に着こう。お前も俺も、そして部下たちも」
そう言うと、ラウドは率先して主人席の左側に座る。
促されてログナスが納得のいかない顔をしながらも席につくと、両翼を埋めるようにターランド伯爵兵とルアン伯爵兵が、その位に倣って次々と席に着いた。
「……お前はこの部屋と、あちらの牢にいる者たちの違いを、どう思う?」
「どう……とは……?」
落ち込みようが酷く、ほぼ酒しか口にしないログナスに向かい、ラウドは交流を深める部下たちにグラスを上げる。
「聖人君子とまではいかずとも、人格が優れているからか?」
「いや……」
粗野な言動が多い田舎者たちだから、全員が全員、お行儀がいいとはいえない。
幼馴染同士ばかりだが、牢にいる者たちもその関係に違いはないだろう。
「立場、だよ」
「は……?」
何を言われたのか理解できず、ログナスは顔を顰める。
「我々は貴族だ。平民より尊重され、権力を持ち、『税』と称して領民から富を得る」
「……はい」
「ここにいる者たちもそうだろうが、心構えが違う」
ログナスがラウドの視線を辿って室内を見渡せば、アーウェンの王都での様子を話す者もいれば、今まで町の中で起こった弱者への暴力行為などの犯罪対策などについての意見を交わしているようだ。
「ここにいる者たちは、自分たちの負う責任と町から得ている賞賛や利益を結びつけているだろう。ここにいない者たちは、責任の重さと自分の得るものの軽さについて思うところがあるのだろう」
「そう……でしょうか……いや、そうかも……しれません」
「貴族といっても、その財や領地、王宮での仕事……責任は重いが、その差がどのようにあるかなど、平民では推し量れぬこともあろう…であれば、生まれの真偽はともかく、『男爵子息』という立場にある者を虐げる機会が訪れた……それを心から喜んで手に入れるか、悪事に染まることをよしとしないか…その心持ちがここにいるかどうかの違いだと、俺は思うぞ」
ログナスはラウドの言葉を聞き、また宴会の席に着く者たちを見回した。
「こっ、このような時に……」
「えっ、いえっ…だ、旦那様……こ、これはターランド伯爵閣下が……」
この町だけでなく、ルアン伯爵領の特産品が使われた宴会料理を前にして、ログナスは怒りを向ける矛先を一瞬見失った。
「とにかく席に着こう。お前も俺も、そして部下たちも」
そう言うと、ラウドは率先して主人席の左側に座る。
促されてログナスが納得のいかない顔をしながらも席につくと、両翼を埋めるようにターランド伯爵兵とルアン伯爵兵が、その位に倣って次々と席に着いた。
「……お前はこの部屋と、あちらの牢にいる者たちの違いを、どう思う?」
「どう……とは……?」
落ち込みようが酷く、ほぼ酒しか口にしないログナスに向かい、ラウドは交流を深める部下たちにグラスを上げる。
「聖人君子とまではいかずとも、人格が優れているからか?」
「いや……」
粗野な言動が多い田舎者たちだから、全員が全員、お行儀がいいとはいえない。
幼馴染同士ばかりだが、牢にいる者たちもその関係に違いはないだろう。
「立場、だよ」
「は……?」
何を言われたのか理解できず、ログナスは顔を顰める。
「我々は貴族だ。平民より尊重され、権力を持ち、『税』と称して領民から富を得る」
「……はい」
「ここにいる者たちもそうだろうが、心構えが違う」
ログナスがラウドの視線を辿って室内を見渡せば、アーウェンの王都での様子を話す者もいれば、今まで町の中で起こった弱者への暴力行為などの犯罪対策などについての意見を交わしているようだ。
「ここにいる者たちは、自分たちの負う責任と町から得ている賞賛や利益を結びつけているだろう。ここにいない者たちは、責任の重さと自分の得るものの軽さについて思うところがあるのだろう」
「そう……でしょうか……いや、そうかも……しれません」
「貴族といっても、その財や領地、王宮での仕事……責任は重いが、その差がどのようにあるかなど、平民では推し量れぬこともあろう…であれば、生まれの真偽はともかく、『男爵子息』という立場にある者を虐げる機会が訪れた……それを心から喜んで手に入れるか、悪事に染まることをよしとしないか…その心持ちがここにいるかどうかの違いだと、俺は思うぞ」
ログナスはラウドの言葉を聞き、また宴会の席に着く者たちを見回した。
5
お気に入りに追加
784
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる