その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

伯爵は友人を嗜める ①

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アーウェンが悪夢から目覚める数時間前──
義父であるラウド・ニアス・デュ・ターランド伯爵は、デビニアン町長邸の裏にある牢屋の中、サウラス男爵家が治める小さな村で『少年』と称することすら躊躇われるほどの幼子を虐待した者たちのひとり──ゼイビアという名の男と向かい合っていた。
「……じゃ…じゃあ……あの…ガキ…じゃない……ぼ、坊やは……ほんまもんの……だ、男爵の……貴族の……」
「ああ。しかもサウラス男爵夫人はあの子の上に四人も男児を産んでいらっしゃる。わざわざ孤児を引き取らねばならぬほど、跡取りに困っているという話はないな」
「そ…そんな……」
さすがに国家の正規軍に所属していただけあって、貴族籍のある者に手を出した場合の処罰については詳しそうである。
だからといって、家名のない平民であれば甚振っていいという話でもないのだが──
「アーウェンは……私の義息子・・・・・は心に大きな傷を負ったが、五年という年月を経て、ようやくその過去を捨て去ろうとしているのに……お前のような害虫はあの子を目にすれば、たちまちその傷口を広げようとする」
「お…俺…俺、いや、わっ私めはそっ、そのようなっ……」
「残念ながら、わずか魔力があるからと言って我がターランド伯爵家の警護兵預かりとなった男がいてな。きっとお前の顔見知りだろうな……そいつがすでにあの子を甚振ろうとしたのだ。我が邸で…な……」
「そ…な……」
「口では何とでも言える。『私はけっしてもう致しません』とな。そいつも隠していた…いや、忘れていたのか?『自分は昔子供を、殺しても構わないと思って甚振っていました』とは申告せずに、我が兵に素知らぬ顔で潜りこんでいたようにな」
「そっ…そんなっ……わ、私はもうそんなことはっ……」
何とか処罰を逃れようとして、ゼイビアという男は繰り返し『もう間違わない』と叫ぶ。
だが、それを黙らせたのはラウドの冷たい視線ではなく、ログナスのさらに冷たい声だった。
「……お前が自慢げに話した『寂れた村で子供を甚振ったから、自分が強いと自信を持った』、その話のせいで、この町は秩序が乱れた。幼い子供が理由もなく殴られたり、投げ飛ばされたり、食べるわけでもない兎や鼠の虐殺死体が路地裏に、わざと人目に付くように捨てられていたり、な……」
「う……」
覚えがあるのだろう──男は哀れっぽく言葉を紡ぐのを止めた。
「五年前、お前は八つか?九つか?違うだろう?二十二になっていた。恥ずかしいな。二十二の男が、三つの幼子を追い回し、殴り飛ばし、奴隷の礼を教え込んだ?生きたままの小動物の皮を剥ぎ、苦し気に息絶えるところを見せつけた?お前は素晴らしい大人だったんだなぁっ!!」
堪えきれなくなったのかログナスは自分の腰に下げていた剣を手に取り、その柄を石壁に激しく叩きつけた。
バキィッと激しい音を立てて石壁は割れ、一部がガラガラと崩れ落ちる。
「ログ……」
「情けないっ!情けないっ!情けないっ!頭がいいとか悪いとか、そういう話ではない!お前は故意に隠したな?!自分が甚振ったのが『親の手伝いもできない頭の弱い青年』ではなく、『親の庇護を得て当然の幼児』であったことを!お前が孕ませた娘御が大事そうに抱えていた男児と同い年の子供をっ!」
「……………」
「お前が本当の親かどうかわからぬ子供なのだから、その子をアーウェン殿と同じ目に逢わせてみようか?同じように殴り飛ばし、腹に痣を作り、片耳を切り落としてやるとナイフを突きつけてみようか?」
「や…やめ……」
「何故止めねばならぬ?『何もわからぬから、教えてやった』のだろう?お前が他人の子に教えたのだ。私が手ずから親の教えをお前の子に教えてやろう」
それは穏やかな優しい町長ではなく、冷酷で静かに怒りを滾らせるひとりの男の姿であり、見下ろされるゼイビアはガタガタと震えることしかできなかった。

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