その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

伯爵家は才能ある者に溢れる ③

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その後単独でターランド伯爵に面会を申し入れた魔術師長は、開口一番にまたとんでもないことを提案してきた。
「……学校?」
「はい」
王都内には貴族たちが通う『王都貴族学院』と、爵位はないものの裕福な一般庶民が通う『王都平民学校』、『私塾学校』の他、商人や王宮、貴族邸で働くための専門職業訓練学校などがある。
わざわざ新たにターランド伯爵家立学校を立ち上げる利とは?
「確かに礼儀作法などや読み書きを教える平民のための学校などはあるのですが……こちらの屋敷に集まるような『貴族籍がないのに生まれつき魔力を持った者たち』が、安価で学べる施設は無いのです」
「ふむ……」
魔力持ちは王侯貴族のみ──そのように考えられていた時代も、確かにあった。
それは多くの魔力持ちが魔力無しの人間よりも肉体的に優位に立てたり、戦争などで手柄を立てたことで、次々と爵位を賜ったためである。
そのため世の中が安定した後は、平民の中に魔力持ちがいたとしても新たに高位貴族籍を与えることが難しく、ターランド伯爵家のような高魔力持ちの貴族の家に養子に入ったり、婚姻関係を結んで姻戚貴族となって権力者側に立つことを選んだ。
「こちらで働く者たちは、たとえ低位でも魔力を持つ者がほとんどです。しかしその魔力の属性が何かとか、どのようにその才を伸ばすなど……実にもったいない。それを知れる機会と学び舎があるだけでも、魔術所としてもそういった者たちを受け入れたいのです」
「新たな魔術師たちの育生を?」
「単に研究するのが得意な者が多いのですが、やはり後進を育てたいと思う者もいるのです。そういった者たちにも仕事を与えた……いっ?!」
突然ラウドが身を乗り出して魔術師長の手を取って強く握ったため、何事かと思わずのけ反った。
「素晴らしい!!バラット!」
「ハッ」
「すぐさま魔術師長の計画する『魔術師養成施設』の建設計画を。新たに買い取ったメイダス区画のいくつかの建物を潰して、新たな学舎を建てるためにかかる費用算出。雇い入れる魔術指導者については魔術師長と相談を。その他、施設に必要な指導者を雇い入れる費用は厭わん。あの周辺で職にあぶれている者たちから優先的に魔力測定をし、体制が整うまでは年齢無制限で受け入れるように」
ラウドが次々と指令を出すのをバラットは素早く書きとりながら笑顔で頷くが、提案者のはずの魔術師長の方が戸惑っている。
「あ…あの……は、伯爵閣下……」
「私では考えつかなかった!今まで我が門をくぐった者の大半は魔術持ちの警備兵所属であったが……彼らは貴族学院で魔力判定や属性を調べられていたため、市井にもそのように才がある者がいようとは思ってもいなかった。使用人も不思議と魔力持ちがほとんどとは思わなかったが……うむ。いい考えだ!」
ソファに座ってはいるものの、ラウドが今にも踊り出しそうなほど気持ちが浮き立っているのがまるわかりだ。

ようやくラウドのテンションに追いついた魔術師長が思いついた計画のアレコレを互いに言い合い、吐き出し切った後に落ち着くと、自然と目下の問題に向き合うことができた。
「よし。ではまずは……アーウェンの中にあった黒い屑は?」
「はい。最初は焼き尽くされたか、腐敗したためにあのような黒い物体になってしまったのかと思ったのですが……」
「違うのか?」
王たちに報告する前に、伯爵家内でも事態を把握したいと開いた会議で、ラウドは目の前に置かれた紙の上に置かれた屑の小さな山を見て、疑問の目を向ける。
どう見ても焼け焦げた何かにしか見えないのだが──
「これは元々黒い種子だったようです」
「種子?」
「……古代森に生息すると言われるある果実から採れる物です。幻覚や幻聴などを引き起こす毒性を持つことから『魅惑の実』と呼ばれている果実ですが……ご存じでしょうか?」
魔術師長が話すそれは『伝説級』の代物であり、現在では世界のどこにもないと言われている果実の話だった。
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