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第一章 アーウェン幼少期

少年はみんなに癒される ④

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呼ばれた総隊長殿は、驚くほどの早さで駆けつけてきた。
──まさか、早朝訓練を見ようと兵舎近くまで来てたのか?
ルベラは「どうやってアーウェンをこの部屋に運んだのか?」と聞かれませんように…と願いながら、神妙な顔を作って、ラウドの斜め後ろに控えている。
副総隊長のそんな心中になど気付かず、ラウドはくぅくぅと今は安らかな寝息を立てるアーウェンを覗き込み、起こさないように気遣いながらそっと青白い頬に触れた。
「……冷たいな」
「吐き気と眩暈は何とか治まったみたいなのですが、体温がなかなか上がりません。かといって温めようとすると、いきなり汗をかいて脱水症状になってしまう……今はカラが作った常温でも飲めるスープを布に含んで少しずつ吸わせているぐらいしか……」
「いや、無理やり食わせるのは難しかろう。よく考えてくれた」
「ハハ…あんまり経験したくはなかったんですが、知識だけの頭でっかちになるより、先の討伐で負傷兵の面倒を見たのが良かったですよ。あの時は高熱での脱水症状でしたが、まあ吐き過ぎても脱水にはなりますからね」
総隊長に褒められたルベラは気恥ずかし気に頭を掻いたが、すぐに真面目な顔に戻って、逆に尋ねる。
「そいで総隊長。坊ちゃんの様子は……?」
「うむ……エレノアの加護の力で頭蓋の中にあるという蔓状のものも取り除けないかと考えてはいるが、どうにもまだ魔力を安定して使えぬ。おそらくアーウェンのこの姿を見せれば、先のように力が顕現するとは思うが……その際はまた極限まで力を使い果たしてしまいかねん」
うぅむ…と大の男ふたりが解決策を考えるが、ラウドは医療よりも身体強化で敵を凌駕する突撃タイプの魔術系が得意で、ルベラはそういった魔術を受ける側で本人はほぼ魔力も魔術の知識もない。
答えなど出ようもないのは明らかで、魔術師はとにかくアーウェンの頭痛を緩和することだけに魔術を施すことにして、ふたりは放置しておくことに決めた。


「おにいしゃまぁ~!おにいしゃまぁ~!あうの~!のあがいいこしゅるのぉ~~~!!」
体力も気力も使い果たしてやっと眠ったアーウェンを本邸に移動させることが憚れると、今晩は父や母とだけの夕食だと知ると、エレノアは泣いて暴れて、あげくには兵舎へ突撃しようとして複数の侍女に挟まれるように抱きしめられてしまう。
「おかあしゃまぁ~~~!のあ~~~!いぐぅのぉぉぉぉ~~~~~!」
ビェェェェ~~ッと甲高い泣き声は吹き抜けの玄関に響いたが、今はエレノアの魔力を温存させると共に、多少はアーウェンに休息させて自力で体力を回復させねばならない。
幼い娘にどうやってそのことを説明しようかとラウドは考えるが、なかなかいい言葉が浮かばない。
「あ……あの……だ、旦那様……」
どう手を差し伸べればいいのかわからないと悩むラウドに対して、そっと後ろから声を掛けてきたのはなぜか鍋を持ったカラだった。
「どうした?というか……それは何だ?」
「あ。これはアーウェン様にお持ちしようと思うスープなんですが……エレノア様が落ち着いたら、少し魔力を分けていただけないかと」
「エレノアの?」
「はい」
コクンと頷くカラに考えがあるらしいと思い、続きを話すようにと促す。
「エレノア様が直接アーウェン様に魔力を注ぎ込むのは、ひょっとしたら……危険かもしれません」
「危険?」
「アーウェン様が倒られた原因が頭蓋の内側にあるというのなら、無理やりそこに寄生する物を取り除くと、最悪のことがあるかもしれません。その……あの……オレ…私の母の……」
「うん」
「い、一緒に働いていた人・・・・・・・・・が、その……お客に変な物を耳から入れられて、やっぱり頭に寄生されたんです。そん時は虫だったんですが……魔術医師が魔力を流して引っ張り出そうとしたんですが、その……ちょっとヤバいことになってしまって……」
「……命の危険があると?」
カラは苦しそうな顔をして、その言葉に頷く。
相手をしていた女はその時一命は取り留めたものの、意識不明のまま寝たきりになって、半年後に息を引き取った。
だがそこまで説明することは、聞いていないだろうとは思っても、幼いエレノアの前ではしたくない。

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