その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

伯爵は男爵を問い詰める ②

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足早に警護兵たちが緊急で詰める兵舎へ向かい、すぐに地下牢へと向かう。
余計な時間をかけるつもりなどなかった。
「大人しくしているか?」
「大人しい……というか……」
ラウドの問いかけに、監視担当の兵が困惑した声を上げる。
「ほとんど気を失った状態で運び込まれ、先ほど気がついたと思ったら食べ物を要求してきたのです。『食べ物を寄こさないと死ぬ!』と喚くものですから、薄く切ったパンとスープ、水を入れましたところ、ものすごい勢いで平らげまして……このような状態です」
案内された牢の中では、大きないびきをかいた男爵が前後不覚なまでに眠り込んでいた。
「酒や薬などを入れたわけではないのだな?」
「はい。あまりにもいびきがひどく、異変があってはいけないと思って魔術師様に診断をお願いしたのですが……本当に『眠っている』だけだと」
しかし伯爵と兵の話し声で意識が戻ったのか、石壁に響いていたいびきが止まり、むくりと男爵は起き上がった。
「大隊長!」
「お下がりください!!」
『……何だぁ……もう終わったのかぁ……あっけないねぇ……ハハ……楽しみだなぁ……またねぇ……』
ただ響くというだけでなく、男爵の口から洩れたのは老人とも子供ともつかない幾重もの声で、意味不明の呟きが零れ、またバタリと男爵の身体は木の板に薄い敷布を敷いただけの寝台に倒れ込んだ。
バフッと何か弾けるような鈍い音がしたが、灰色の煙のような物が男爵の頭の方から漂っただけで、牢格子にかけられた魔術のおかげで廊下までは漏れてこない。
「……とにかく牢内の空気を清浄化してから、尋問に入れればと思いますが……」
「今の状態では無理だな。とにかく、今日の執務はこちらで行う。目が覚め次第、知らせを」
「ハッ!」
魔術師が指示を行うと、兵が数人がかりで清浄の呪文を発動させた。
あまりにも堅牢なターランド家の地下牢は、魔力が豊富な者でも単独では起動できないほどの強い魔術が掛けられているため簡単に解除することはできず、手順を踏むにも時間がかかる。
また本邸からの移動には走っても十五分はかかるため、その時間を短縮するために第二執務室として兵舎にもラウド専用の部屋がいくつかあった。
「バラットに本日処理せねばならぬものを整えてこちらに寄こすようにと伝達を。奥様にもこちらからは離れられないとお伝えしてくれ。アーウェンの様子を可能な限り知らせるように」
ラウドはそういくつかの指示を飛ばすと、チラリと男爵の方へ視線を飛ばし、来た道を戻って自分の部屋へと向かった。

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