その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ

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第一章 アーウェン幼少期

少年は『繋がり』が切れる ①

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どういえばいいのだろう──目の前にいる表情と顔色が次々と変わっていくに対し、驚くほど執着心は起きなかった。
『これ』は──『この男』は、父だ。実の父。
なのに、今までであればきっと「自分を迎えに来てくれた」と思ったであろうはずの『恐れと慈愛を求める気持ち』は、なぜかちっとも湧いてこない。
言葉に直せばそうなのだろうが、アーウェン自身はいきなり自分が無感情になってしまったように感じ、どういうふうに実父に挨拶をしたらいいのかわからず、簡単にこう言っただけである。
「父様、お久しぶりです」
「と…とうさま、だと……?」
その言葉にようやく部屋に入ってきた上等な服を着せられた少年が、あの痩せこけて死にかけていた末子だとようやく気付いた。
「……アー……ウェン……か?」
「はい。アーウェン・ウュルム・デュ・ターランドです、父様」
「ハァ?……ハ……ハハ……ハハハハ……ハハハハハハハハハ────ッ!ヒャァ───ハハハハハハハハッ!」
「……と、父様?」
突然笑いだした父の変化に気おされるように、アーウェンはわずかに後ずさった。
が、その動きに合わせるかのようにサウラス男爵はアーウェンに近づくと、側にいたカラが止める間もなく、その襟元を掴んで絞めるように持ち上げて怒鳴りつける。
「ターランドだと?!ターランドだとっ?!貴様が?笑わせるな!貴様はただのアーウェンだ!洗礼名謎いらない!サウラス男爵家の…私の所有物だ!伯爵家の息子になぞいさせてたまるか!その籍は、ヒューデリクの物だ!ヒューデリクにお前の『ウュルム』という洗礼名を寄こして、さっさといなくならんか?!なぜお前はまだ生きてるんだ?!死んだはずだろう?お前は…死んだはずだ……死ね…死ねっ…死なないのなら、殺してやる……殺して…お前さえいなくなれば、ヒューデリクが、伯爵の……」
ヒュ…と細い悲鳴じみた呼吸が吐かれると、気が狂ったとしか思えない男爵は、簡単に持ち上げられたその小さな身体から生命の火を消そうと、改めてアーウェンの細い首にかけた指に力を込めた。


『‥……ェ……ン……ッソ……ツ……牢に……いや……ウェ……エレ……』
だれか……の……こえ……どぉ…して……いきて……にい……さ……ま………ノ、ア……
───ああ、ようやく。まったく…忌々しい……これで、ようやく……役立たずが……
だれ……ぼ……く……は……
『……ウェ……さ……あぁっ……レが……申し……あり……もっ……』
『……い……だいじょ……だん……気を……』
───ふん……黒の腐術は完成した……お前の中の種が芽吹くまで……クク……
た…ね……いた……い………?
───痛いか?この目で見れないのが残念だが……ハハ……もう命の灯が消えるな……繋がりが薄くなって……
『………ま……お……しゃ……のあ……がんば……』
……………
───ヒ…ヒヒ……ヒヒヒ……もう聞こえない………聞こえないんだから……

ジジッ。
プツ。
ボトッ。
それはもうひとつ、ひび割れた人形が落ちる音。

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